カーボンナノチューブの高効率光電変換機構を解明―画期的な太陽電池開発に手掛かり
:筑波大学/科学技術振興機構

 筑波大学と科学技術振興機構(JST)は5月21日、超微小な筒状炭素構造物のカーボンナノチューブ(CNT)に生じる「多重励起子生成」と呼ばれる現象のメカニズムを解明したと発表した。多重励起子生成は、太陽光発電の担い手である電子・正孔のペアの励起子が、現状のシステムとは異なり、1つの光子から複数生成される現象。この解明は、現在主流となっているシリコンを上回る画期的な高効率太陽電池の開発につながる可能性があるという。
 この研究は、筑波大数理物質系の岡田晋・准教授と小鍋哲研究員らの研究チームが(独)科学技術振興機構の課題達成型基礎研究の一環として取り組んできた。
 現在の太陽電池は、光エネルギーの多くが熱エネルギーになって失われており、この熱散逸により、例えばシリコン半導体製の太陽電池の場合の光電変換効率は原理的に33.7%が上限とされている。
 これに対し、量子科学の法則が支配するナノメートル大(1nmは10億分の1m)の半導体では、入射した光エネルギーが熱散逸によって失われる前に、そのエネルギーが他の励起子を生成するために用いられ、その結果として、1つの光子から複数の励起子の生成が可能とされる。
 2002年に多重励起子生成が起きることが理論的に予測され、その後、カーボンナノチューブなどで実験的に確認されたが、その物理的メカニズムは不明だった。
 研究チームは今回、単一光子から生成された1つの励起子が、クーロン相互作用(プラスとマイナスの電荷間に働く力)によって同時に他の励起子を生成するという現象が起こることを理論的に解明し、これまで報告されていた実験結果の説明に成功した。計算の結果、光から励起子への変換効率は100%を大きく超えることが示されたという。これは従来の変換効率の限界を超える可能性を示すもので、研究チームは今後、高効率光電変換プロセスに適した物質設計とシミュレーションを行い、具体的なデバイス開発への理論的な指針を得たいとしている。

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