温暖化に負けない―イネやコムギ作りに道筋:理化学研究所ほか
(2025年8月28日発表)
(国)理化学研究所、横浜市立大学、長崎大学などの研究グループは8月28日、イネやコムギなどの温帯性草本植物が地球温暖化に適応できるようにする道筋を見出したと発表した。適応力の向上には土壌中の鉄を根から吸収する仕組みがカギになることを突き止め、鉄を吸収しやすい形にして投与すれば温暖化の下でも成長を促せるとした。次世代肥料の開発にも役立つという。
東京大学や(国)農業・食品産業技術総合研究機構も参加した研究グループが研究対象にしたのは、コムギやイネと同じ温帯性草本植物の「ミナトカモジグサ」。この植物も長期にわたって高温ストレスにさらされると鉄欠乏に陥ることに注目、その背景にある遺伝的メカニズムを探った。
初めにコムギを32~35℃の高温環境下で2週間育て、葉の光合成量や生育状況を調べた。そのうえで葉の元素組成を分析したところ鉄の含有量が著しく低下、鉄の欠乏が光合成の低下や成長抑制に関係していることが分かった。そこで鉄の欠乏に関係する遺伝子の働きを調べたところ、高温ストレス下では若い葉ほど鉄が欠乏、葉が黄色になっている度合いと符合したという。
今回はさらにコムギと近縁のモデル植物「ミナトカモジグサ」を高温環境下で鉄欠乏状態にして育てた。その結果、3週間で葉の光合成が低下、成長が抑制されるなど鉄欠乏の兆候が見られた。その一方で、主に地中海沿岸から集めた系統は長期の高温環境に強いことがわかった。
そこでミナトカモジグサの遺伝子を詳しく調べたところ、高温耐性に関わる遺伝子領域があることを確認した。ムギなどのイネ科植物では、鉄不足の際に根から分泌されたムギネ酸が土壌中の鉄を吸収しやすくする。このムギネ酸を植物体内の必要な場所に運ぶたんぱく質「トランスポーター」の遺伝子が、高温環境下での生育に重要な役割を果たしていることなどが分かった。
これらの成果について、研究グループは「温暖化による生育環境の変化に対応した品種育成や栽培管理技術の開発を通じて土壌資源や農地生態系の持続的利用、食糧供給の安定化に役立つ」と話している。