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小惑星リュウグウから始原的な「塩」を発見―初期太陽系の物質進化の探求に新たな知見:海洋研究開発機構/九州大学/産業技術総合研究所ほか

(2023年9月19日発表)

 (国)海洋研究開発機構と九州大学の国際共同研究グループは9月19日、東京大学や(国)産業技術総合研究所、(株)堀場アドバンスドテクノなどの研究者らととともに、小惑星リュウグウのサンプルに含まれる可溶性成分を抽出、精密分析し、始原的な「塩」のもとになるナトリウムイオンが熱水抽出物に非常に多く含まれていることを見出したと発表した。

 最初の「塩」の生成する様子を紐解くことにつながる成果で、地球の海、そして生命を構成する物質の起源や進化を探求する上で重要な知見としている。

 小惑星リュウグウは、地球が誕生する以前の太陽系全体の化学組成を保持する始原的な天体の一つ。小惑星探査機「はやぶさ2」が2020年12月にリュウグウから持ち帰ったサンプルの初期分析で、これまでにアミノ酸などの有機物や水の存在などが確認されているが、可溶性成分の含有量や組成、化学的な性質はこれまで不明だった。

 研究グループは今回、サンプルから可溶性成分を抽出し、無機・有機分子レベルの精密な化学分析を行った。

 その結果、最も溶解しやすい成分を反映する熱水抽出物は、ナトリウムイオンに非常に富んでいることが分かった。ナトリウムイオンは、鉱物や有機物の表面電荷を安定化させる電解質として働き、一部は、有機分子などと結合することでナトリウム塩として析出していると考えられるという。

 抽出物からは、様々な有機硫黄分子も発見された。イオンクロマトグラフィー/超高分解能質量分析法によって、多種多様な有機硫黄分子群の新たな同定に成功した。小惑星リュウグウに存在する水に溶存して化学状態が変化することで、多種多様な硫黄分子群へと化学進化を遂げたと考えられるという。

 初生的な有機物から親水性や両親媒性を持つ分子群まで、水-有機物-鉱物反応による化学進化の記録を捉えた。

 これらの成果は、初期太陽系の物質進化を紐解くものであるとともに、それらが最終的に生命誕生に繋がる化学プロセスをどのように導いたかという大きな問題に答える上で重要な知見となるとしている。