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2次元原子層材料の微細構造を高精度で解析可能に―電子顕微鏡と機械学習を組み合わせて実現:物質・材料研究機構

(2025年8月25日発表)

 (国)物質・材料研究機構を中心とする研究チームは8月25日、次世代の電子デバイス材料として世界的に注目されている二硫化モリブデン(MoS2)の性能を左右するナノメートルレベルの微細構造を高精度かつ広範囲に解析できる手法を開発したと発表した。新デバイス材料の最適な成長条件の探索や製造プロセスの最適化などが期待されるという。

 二硫化モリブデンは遷移金属のモリブデンとカルコゲン元素のイオウが結合した化合物。遷移金属原子層をカルコゲン原子層が挟んだ遷移金属ダイカルコゲナイド材料群は、原子数層からなる二次元構造をとることができ、柔軟な構造や優れた電気的・光学的特性から、次世代エレクトロニクスなどの分野で注目を集めている。

 ただ、二次元材料固有の優れた特性を活用・制御するには微細構造の高精度かつ広範囲な評価が欠かせない。なかでも「ツイスト」と呼ばれる、わずかな回転の生じた結晶ドメインや、原子配列の方向を示す「極性」といった微細構造を高度に解析することが課題とされている。

 研究チームは、4D-STEMと呼ばれる走査透過電子顕微鏡を使った計測法と、正解ラベルを使わない、いわゆる“教師なし機械学習”とを組み合わせて、ツイストと極性を解析できる手法を開発した。

 実験では、有機金属気相成長法を使って単層MoS2を作製し、4D-STEM により2万点以上の回折パターンをナノメートルの空間分解能で取得、得られた膨大な回折パターンデータを教師なし機械学習で解析した。

 その結果、従来の電子顕微鏡技術では困難だった結晶成長の様子や欠陥の全体分布を、広範囲にわたって可視化することに成功した。具体的には、結晶のツイストと極性を、ナノメートルレベルの分解能で可視化することに成功した。

 今回の成果を用いると、どのような条件でどのような微細構造になるのか、あるいは、どの領域が性能劣化をもたらすか、などを定量的に把握できるため、最適な成長プロセスの実現や不具合の原因究明がスムーズに進み、次世代の高性能電子デバイスの開発に貢献することが期待されるとしている。