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アフリカツメガエルのゲノムの全構造を解明―進化の原動力の一つ「全ゲノム重複」の謎に迫る:東京大学/産業技術総合研究所ほか

(2016年10月20日発表)

 東京大学や(国)産業技術総合研究所など18研究機関の研究者から成る研究チーム(代表、平良眞規東大准教授)は10月20日、2種類の祖先種が異種交配して「全ゲノムが重複」したとされるアフリカツメガエルのゲノムの全構造を解明したと発表した。全ての主要モデル生物のゲノム情報がこれで出そろったことになり、全ゲノム重複が生物進化に及ぼしたインパクトを読み解くカギが得られたとしている。

 全ゲノム重複は、遺伝情報の1セットであるゲノムの倍加を指す。異なる2つの祖先種が異種交配すると通常は精子や卵子が作れず子孫を残せないが、何らかの偶然で雑種ゲノムに全ゲノム重複が起きると子孫を残せる。

 生物進化の大きな原動力の一つと考えられており、例えば約5億年前に脊椎動物が出現する過程で2回の全ゲノム重複が起き、これによって遺伝子数が格段に増えたことが脊椎動物の誕生とその後の多様化、繁栄をもたらしたと考えられている。

 アメリカツメガエルは異種交配と全ゲノム重複により異なる2種類のゲノムを持った「異質四倍体」とされ、このカエルのゲノム解読は生命科学の進展に大きく寄与すると期待されているが、ゲノム自体が複雑なことから全ゲノム解読は長らくあきらめられていた。

 研究チームは2009年からこの解読に乗り出し、2012年からは同じく解読を目指していたアメリカのチームと国際コンソーシアムを組んで取り組み、今回ほぼ全貌を解明した。

 それによると、アメリカツメガエルのゲノムの中にある2種類のゲノムは別々の染色体のセットに分かれて存在していることが明らかになった。また、アメリカツメガエルは約1800万年前に2つの種が異種交配と全ゲノム重複を起こして誕生した異質四倍体であること、その後2つのゲノム(サブゲノム)が一つの生物の中で異なる進化をたどったことが分かった。

  今後解析をさらに進めれば、このカエルから得られる知見はこれまで謎であった約5億年前に起こったとされる脊椎動物の初期の進化での2回の全ゲノム重複や、約3.2億年前あるいは約1億年前に起こったとされる魚類の系統での全ゲノム重複が、その後の進化にどのようなインパクトを与えたかを解くカギになると期待されるという。