ヒトの遺伝子変異―腸内細菌集団にも影響:理化学研究所
(2025年10月14日発表)
(国)理化学研究所は10月14日、免疫や嗅覚、アルコール代謝に関わるヒトの遺伝子が腸内で消化吸収などを助けている細菌集団にも影響を与えていると発表した。ヒトの遺伝子と腸内細菌の相互作用はこれまで欧州で研究されてきたが、今回初めて日本在住のアジア人集団で確認した。遺伝と環境の両方に複雑な影響を受ける腸内細菌の研究を今後さらに進めれば、健康改善の新たな手段にもつながると期待している。
研究対象にしたのは、東京大学医学部付属病院の予防医学センターを受診した20歳から75歳までの306人の健診データ。このうち一定の基準を満たした296人分の試料を解析した。微生物の種類やその遺伝子の機能を調べる特殊な手法「ショットガンメタゲノムシーケンシング法」を使い、採取した糞便中の227種類の細菌とそれらの働きを詳しく調べた。
その結果、免疫に関わるB細胞を体内で作り出すのに欠かせない遺伝子(PAX5)に変異が起きている人は、クロストリジウム目と呼ばれる特定の種類の細菌を腸内に持っている確率が持っていない人に比べ約5倍も高いことが分かった。この遺伝子変異はB細胞急性リンパ性白血病を引き起こすことが知られている。そのためこの結果は、免疫機能と腸内細菌の関連を示唆するもの、と研究チームはみている。
また、ヒトの嗅覚に欠かせないたんぱく質を体内で作る遺伝子(OR6C1)の変異も、特定の腸内細菌の増加と関連していることが分かった。複雑な炭水化物の消化や免疫系の維持に関与する腸内細菌「バクテロイデス・ユニフォルミス」に影響を与える可能性が示されたという。そのためこの遺伝子が腸内でも何らかの役割を持つ可能性が示唆されたと研究チームはみている。
アルコール代謝に影響を与えることが知られている遺伝子の変異については、特定の遺伝子を持っているかいないかで影響が異なる可能性が示唆されたという。ただ、予備的な研究結果のため、今後より大規模で多様な集団での研究が必要としている。
理研は「腸内細菌叢への遺伝的影響を研究するには、一貫した方法論と慎重な統計的解析を用いることが重要」とし、慎重で統一されたアプローチが遺伝的発見を健康改善につなげる鍵となると話している。



