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イネの茎長決める仕組みを解明―風雨に強い新品種開発も:名古屋大学/岡山大学/横浜市立大学/国立遺伝学研究所/理化学研究所/農業・食品産業技術総合研究機構

(2020年7月16日発表)

 名古屋大学と(国)農業・食品産業技術総合研究機構などの研究チームは7月16日、イネが茎を伸ばすタイミングを制御する仕組みを解明したと発表した。コムギなども含むイネ科作物の茎を伸ばすアクセル役とブレーキ役の遺伝子を発見、茎長を制御していることを突き止めた。茎長は風や雨による倒れやすさに影響するなどイネ科作物の環境適応に深く関わっているため、風雨に強い新品種づくりなどに応用できると期待している。

 名大の永井啓祐助教、芦苅基行教授らが、岡山大学、横浜市立大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所、農研機構と共同で明らかにした。

 コムギやトウモロコシなどのイネ科作物の茎の長さは、植物ホルモン「ジベレリン」が茎の節の間の細胞分裂を一定期間だけ促すことで決まる。ただ、どのような仕組みで節間の細部分裂の開始と終わりが制御されているか、詳しい仕組みは不明だった。

 そこで研究チームは、一般的な水田で栽培されるイネと、季節性の洪水が発生する東南アジアなどで栽培され穂が水の上に出るように茎を伸ばす浮イネを用い、ジベレリンと節間伸長の関係を詳しく調べた。その結果、浮イネはジベレリンを与えるとすぐに節間の細胞分裂が活発化して伸びたのに対し、一般的なイネは若い時期にジベレリンを与えても伸びなかった。このため、ジベレリンが働き始めるには別の因子が存在しているとみて詳しく分析したところ、アクセル役遺伝子「ACE1」とブレーキ役遺伝子「DEC1」を発見した。

 さらに、一般的なイネでは、このアクセル役遺伝子に突然変異が起きていて、若い時期にいくらジベレリンを加えても節間の細胞分裂が始まらず、成熟期に入って初めてジベレリンに応答し細胞分裂が起きて節間が伸びることも分かった。一方、浮イネはジベレリンにすぐに応答して節間の細胞分裂が活発化、節間が伸びた。そこで、これらの遺伝子と、浮イネの節間伸長に関する既知の遺伝子を一般的なイネに組み込んだところ、洪水環境の下でも節間を伸ばして生き残り種子が収穫できたという。

 今回の成果について、研究チームは「高収量の浮イネ品種の開発や、さまざまな環境変化に応じてイネ科作物の草丈を調整する技術の確立が期待される」と話している。