[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

骨のない昆虫に―カルシウム貯蔵・放出機構:筑波大学ほか

(2025年10月21日発表)

 神経活動や筋収縮に欠かせないカルシウムの貯蔵庫である骨のない昆虫は体内濃度をどう調節しているのか。筑波大学と電気通信大学は10月21日、これまで謎とされていた疑問を解決したと発表した。ショウジョウバエによる実験で脊椎動物の腎臓に相当するマルピーギ管にカルシウムを蓄積、必要に応じて体内に放出していることを突き止めたと発表した。脊椎動物であるヒトのカルシウム代謝異常や関連疾患の治療法の開発にも役立つという。

 カルシウムは動物の生存に不可欠なミネラル。ヒトを始めとする脊椎動物は、骨から必要に応じてカルシウムを放出し血中カルシウム濃度を維持する。一方、骨のない昆虫が体内カルシウム濃度をどう維持しているかは未解明だった。そこで研究グループはショウジョウバエの幼虫を用い、昆虫が体内のカルシウム量をどう調節しているかを詳しく調べた。

 カルシウムを含まない飼料で幼虫を育てると、幼虫の運動能力低下や変態時の筋収縮異常によってさなぎが細長く変形する異常が現れ、運動機能が低下して死亡率も上昇した。一方で、飼料に低濃度のカルシウムを加えると、体液中のカルシウム濃度や発育は正常に保たれた。

 そこで研究グループは、ショウジョウバエが体内のカルシウムを安定的に保つ何らかの仕組みを持っていると考え詳しく調べた。その結果、ショウジョウバエの脳神経系の特定の神経細胞から分泌されるCapaと呼ぶペプチドホルモンが、体内カルシウム濃度を調節していることを突き止めた。

 このホルモンは脊椎動物の腎臓に相当するマルピーギ管の先端領域に作用。その先端内部にある空洞に蓄積する「真珠様カルシウム顆粒(PCG)」からのカルシウム放出を促す。食物からのカルシウム摂取が不足したときに、体液中のカルシウム濃度を補う仕組みとなっている。そのため研究グループは「PCGがショウジョウバエにおけるカルシウム貯蔵庫であり、Capaがこの貯蔵カルシウムを体液中に放出させる作用を持つ」とみている。

 今回の成果について研究グループは、昆虫にとどまらず脊椎動物を含む多様な動物種のカルシウム調節機能の理解につながるとみており、人間のカルシウム代謝異常や関連疾患の新しい治療法の開発や創薬に役立つと期待している。