弾性変形が実用金属より数倍も大きい合金を開発―高性能ばね材や医療用材料などへの応用に期待:東北大学/日本原子力研究開発機構ほか
(2022年10月13日発表)
東北大学と日本原子力研究開発機構、J-PARCセンター、九州大学の共同研究グループは10月13日、これまでの実用金属より数倍も大きな弾性変形を示す銅系合金を開発したと発表した。高性能ばね材などへの応用が期待されるという。
弾性変形は力を加えると歪んで変形し、その力を取り除くと元の形に戻る現象。通常、実用バルク金属材料の弾性歪みは約1%以下だか、研究グループは今回、弾性歪みが4.3%を超える、金属学のこれまでの常識を覆す材料を得た。
世の中の多くの金属材料部材は弾性変形領域で利用されているが、そうした中で、人工骨、歯科用材料、あるいはばねなどの部品において、小さい力で大きく伸び縮みする、いわゆる低ヤング率で高強度を兼ねた弾性変形特性を示す材料が求められることがある。
研究グループが着目したのは、東北大学が1990年代に開発した銅を主成分とする「銅-アルミニウム-マンガン合金系」材料。この合金系は原子配列が規則化した体心立方構造を持ち、結晶の弾性異方性が極めて大きいという特長がある。
そこで研究グループは、この合金系の組成を調整、結晶方位を制御し、バルク単結晶材を作製した。室温で一軸引張試験を行ったところ、4.3%を超える弾性歪みの発現が確認された。これは鉄鋼を含むほとんどの実用バルク金属材料より4倍以上大きく、2%程度の弾性歪みを示すチタン系ゴムメタルをも遥かにしのぐ性能。
また、得られた合金は応力と歪みの関係が直線となるフックの法則が成り立たず、応力の増大に従ってヤング率が小さくなる弾性軟化現象も確認された。つまり大きな応力を加えても粘度のような塑性変形にはならず、弾性変形を伴って柔らかくなる。これも金属学の常識とは異なる成果という。
J-PARCセンターの加速器から放出される中性子ビームを引張試験中の試料に当て、構造解析を行ったところ、新合金における大きな弾性歪みは体心立方構造を保ったまま結晶の格子が伸縮することに由来することが分かったという。
新合金は高性能ばね、コネクタ、シール材はじめ、精密機械、医療機器などへの応用が期待されるとしている。