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海洋の窒素循環の解明・理解に新たな手がかり―アナモックス細菌を用い酸素同位体分別測定に成功:北海道大学/海洋研究開発機構/総合地球環境学研究所/国立環境研究所ほか

(2025年6月20日発表)

 北海道大学と(国)海洋研究開発機構などの共同研究グループは6月20日、嫌気性アンモニア酸化反応における酸素同位体分別を求めることに成功したと発表した。海洋の窒素循環の解明・理解に寄与する成果という。

 海洋の窒素循環は地球環境の維持に不可欠なサイクルで、気候変動対策や生態系保全と深く関わっていることから、その仕組みを正確に理解することが求められている。

 今回研究したアナモックスとも呼ばれる嫌気性アンモニア酸化は、海洋の窒素循環において重要な役割を果たしている窒素除去のプロセスで、未解明な点が多く残されている。なかでもアナモックスの酸素同位体分別は反応が複雑であるためこれまで全く研究されていなかった。

 研究グループは、海洋性アナモックス細菌Scalinduaが高度に集積した培養液を用い、アナモックス反応の酸素同位体分別を試み、世界で初めてその測定に成功した。測定したのは ①亜硝酸から分子状窒素への変換 ②亜硝酸から硝酸への酸化 ③亜硝酸酸化時の水由来の酸素の取り込み、の3種。それと、アナモックス細菌による亜硝酸と水の間の酸素同位体交換速度定数を定量した。

 Scalinduaは、亜硝酸と水の間での酸素同位体交換を、従来の非生物的な交換速度の約8~12倍の速さで促進することを確認した。

 これらの結果から、亜硝酸酸化によって生成される硝酸の酸素同位体比が、周囲の水の酸素同位体比に急速に近づく現象が明らかになった。

 これまでの研究では、好気的な硝化反応によって生成される硝酸の酸素同位体比は、亜硝酸と水の間の酸素同位体交換や、分子状酸素や水からの酸素の取り込みによる同位体効果により、周囲の水の酸素同位体比に近づくことが知られていた。

 今回の研究成果では、これに加えて、嫌気環境(無酸素)下において、アナモックス細菌により亜硝酸が硝酸へ酸化される際も、同様な現象が起こることが確認された。この結果は、海洋の窒素の損失量を評価するための地球化学的指標である硝酸の酸素同位体比や亜硝酸の酸素同位体比が、水の酸素同位体比によって書き換えられ、アナモックスや脱窒の酸素同位体シグナルが消失する可能性があることを示しているという。

 そのため、海洋の窒素循環を評価する際には、これらの指標の変動を慎重に分析する必要があるとしている。