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光学活性高分子に新合成法―液晶を重合反応に活用:筑波大学

(2022年6月8日発表)

 筑波大学は6月8日、偏光の向きによって光の透過率が異なるという光学活性を持つ高分子材料の新合成技術を開発したと発表した。原料となる単位分子「モノマー」自体に光学活性を導入したうえで、化学反応の場として液晶を用いて高分子化することで実現した。光の波の振動方向を回転させる光学回転や発光性などを電気的に制御できる素子の開発につながると期待している。

 液晶中で高分子を合成すると、材料のモノマーは液晶の分子配列を転写しながら重合し、液晶と同様の分子配列を持った高分子ができる。筑波大の後藤博正准教授の研究グループはこの仕組みを利用して、簡単に光学活性を持つ導電性高分子が得られることを見出していた。ただ、材料となるモノマーに光学活性のない分子を利用するため、液晶に光学活性を持つ低分子化合物を添加材として加える必要があった。

 これに対し今回、研究グループは原料となるモノマー自体に光学活性を持たせ、添加剤を使わずに導電性高分子を合成することを試みた。具体的には、重合活性の高いビチオフェンに光学活性を持つアルキル基を導入した物質を原料として用いた。

 このモノマーは液晶となじみやすいため、光学活性を持たないネマチック液晶を光学活性のあるコレステリック液晶に変える働きをする。そのためこの液晶を用いると、特別な添加剤を加えなくても原料のモノマーが液晶のらせん状分子構造を転写しながら重合し、高分子に成長することが、今回の研究で明らかになった。

 実験では、新技術で得られた高分子材料は光学回転や円偏光二色性といった明確な光学活性を示し、それらの特性を電圧によって制御することもできたという。