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マアジが経験した海水温―1日単位で解明:京都大学/水産研究・教育機構/筑波大学ほか

(2022年10月14日発表)

 京都大学と(国)水産研究・教育機構、筑波大学の研究グループは10月14日、海を回遊する魚が経験した水温変化を一日単位で分析することに成功したと発表した。マアジの頭部にある耳石(じせき)と呼ぶ硬い組織に刻まれた模様を分析、稚魚(ちぎょ)期に経験した日々の水温変化を解明した。新技術はマアジ以外の魚にも応用でき、将来の水産資源の評価や保全策の策定に役立つと期待している。

 研究グループは今回、魚類の内耳にある炭酸カルシウムの結晶「耳石」が魚の回遊環境でわずかに異なる点に注目。耳石には質量がわずかに異なる炭素原子や酸素原子の同位体が含まれており、その比は魚が日々経験する海水温と海水中の同位体比によって決まる。これが樹木の年輪のように、耳石に日周輪として記録されている。

 今回、マアジの耳石の日周輪を一本ずつ切り取る手法を確立、炭素原子と酸素原子の同位体比を定量した。実験では耳石の成長が早い孵化(ふか)後30~70日に時期の1日分に相当する日周輪を平均27µm(マイクロメートル、1µmは1,000分の1mm)の幅で切り取った。この日周輪に含まれる同位体比を1本ずつ計測し、1日単位でマアジが経験した5℃程度の水温変化を読み取ることに成功した。

 水温は海洋生物の分布を決めるうえで最も重要な環境要素の一つ。地球温暖化に伴う海水温の変化は、多くの海洋生物の分布や資源量の変化に大きな影響を与えると考えられている。そのため水産資源を今後も持続的に利用するには、水温変動が魚の成長や分布・回遊に与える影響を理解することが重要とされていた。

 そのため、体長の大きな大型魚種では、これまでも電子タグをつけて放流・再捕獲してどんな水温環境を体験したかなどの記録が調べられている。ただ、日本の水産資源の中でも漁獲量の多いマアジなど小型魚種では、そうした手法で調べるのは困難とされていた。

 今回の技術について、研究グループは「魚類の耳石だけでなく、サンゴや貝類、鍾乳石など、100~1,000年規模での環境履歴を記録している炭酸カルシウムの高解像度同位体分析にも応用可能」として、地球環境の変化を詳細に調べるのにも役立つと期待している。