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肥料に不可欠の「カリウム」を海水から回収―新たな方法を開発、実用化に向け一歩:産業技術総合研究所

(2025年6月23日発表)

 (国)産業技術総合研究所は6月23日、海水に含まれる僅かなカリウムを選択的に回収する方法を開発したと発表した。カリウムは、植物を育てる肥料に不可欠な要素の一つだが、海水中のカリウムは濃度が低く実用できる回収方法がまだない。そのカリウムを共存する化学的性質が似ているナトリウムを含まずに選択的に回収する方法を見つけた。模擬海水を使っての成績だが、ナトリウムイオンを99%以上排除し、カリウムイオンを10倍濃縮して回収することに成功した。

 カリウムは、窒素、リンと共に植物の成長に無くてはならない必須の栄養素で、岩塩などの鉱石に多く含まれ、現在はそれを精製して肥料に使っているが生産地が限られ、日本はほとんどを輸入に依存している。四面海に囲まれていながら、海水に含まれるカリウムは濃度が僅か約0.04%と低いため回収できずにいる。

 今回の新技術は、18世紀から使われてきた青色の人工顔料「プルシアンブルー」の錯体(金属と非金属の化合物)を利用して開発した。プルシアンブルーは、葛飾北斎の不朽の名作版画にも使用され鮮やかな青色で知られており、現在は金属イオンの種類や比率を変えることで化学構造の似た各種のプルシアンブルー型錯体が作れるようになっている。

 研究グループは、さまざまなプルシアンブルー型錯体を電極に用いてナトリウムイオンを過剰に含む溶液の中からカリウムイオンだけを選択的に回収できる材料を探索、ニッケルと鉄のNiHCFと呼ぶプルシアンブルー型錯体によりカリウムイオンだけを選択的に濃縮できることを見つけた。

 そしてさらに、カリウムを電気化学的に吸着したり脱離(回収)したりできる電極を開発した。

 その電極は、電気の通り道となる金属集電体にNiHCFを薄く塗布した構造になっていて、流す電気を水の電気分解電圧以下に制御することでカリウムイオンの吸着と回収を行えるようにした。

 この技術を用い模擬海水について吸着・回収を3回行うことでナトリウムイオンを99%以上排除し、カリウムイオンの濃度を10倍以上高めることに成功した。

 こうした結果が得られたことから今後はカリウム溶液を液肥などに利用可能な濃度まで濃縮する技術の開発を進め、その上で肥料の固体化を可能にする技術の開発に取り組み、併せて実用化を目指した処理工程の簡素化を進める予定という。

 産総研は「今後、カリウムイオン水溶液の濃度をさらに高めることで、農作物の生育に必要なカリウム資源を国内で安定的に生産できる技術へと発展できると期待される」と自信を見せている。