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白い鉄サビで、安全な紫外線防止剤を開発―酸化チタンに代わる日焼け止めクリーム素材として有望視:物質・材料研究機構ほか

(2022年6月21日発表)

 (国)物質・材料研究機構の井出 祐介主幹研究員と、北海道大学触媒科学研究所の峯 真也(みね しんや)博士研究員、鳥屋尾 隆(とやお たかし)助教、清水 研一教授、広島大学大学院の津野地 直(つのじ なお)助教の研究チームは6月21日、紫外線(UV)を吸収する安全で白色の酸化鉄系材料を開発したと発表した。化粧品や日焼け止めクリームに含まれる紫外線防止剤として、安全性が懸念される酸化チタンの代替品や光触媒への実用化を目指す。

 酸化チタンは、化粧品やUV防止剤、光触媒、日用品、食品、医薬品、建材などに幅広く使われている白色の無機物質。ほとんどの酸化チタンの大きさは、粒径がナノサイズ(1nm (ナノメートル、1nmは100万分の1mm))以下。

 2020年にEU(欧州連合)は、ナノサイズの酸化チタンを細胞毒性等に起因する「発がん分類区分2」に指定した。「区分2」は「ひとに対して発がん性がある可能性がある」とされており、フランスでは食品への利用を禁止し、製造・利用を制限している。

 日本では今のところ使用制限はないが、酸化チタンが広範に産業利用されていることから、いずれは重要な社会問題になると考え、研究チームは積極的に代替材料の開発に取り組んだ。

 代替材料には、コストが安く資源量が豊富で、生体親和性に優れた物質の酸化鉄や水酸化鉄が候補に上がった。酸化鉄は主に可視光を吸収し赤色顔料に使うため、白色顔料やUV吸収剤には向いていない。

 一方、「二核鉄(にかくてつ)イオン」はUVを吸収しやすく、酸化チタン以上の光触媒活性が認められた。ところが二核鉄イオンは極めて不安定なのが欠点で、たやすく分解され、また他の物質へと変化しやすかった。

 研究チームは、市販の多孔質シリカと単核鉄イオン溶液を混ぜることで、UVをよく吸収し、同時に光触媒作用が低い白色粉体を見つけた。

 この粉末に天然オイルを混ぜてペースト状にし、日焼け止めクリームに使ったところ、現在の酸化チタンに匹敵する性能と安定性があった。北海道大学が構造解析をし、多孔質シリカの細かい穴に二核鉄イオンが固定されたことで安定性が確保されていることを突き止めた。

 二核鉄イオンは、酵素やたんぱく質などの天然物質に偏って存在しており、人工的にはほとんど合成できない。安全性と安定な構造を確保するために、微細構造の多孔質シリカを利用したことが成功の鍵となった。

 多孔質シリカは数マイクロメートル(1µmは1,000分の1mm )と比較的大きな粒子で、人体組織を通過しにくく、懸念されるような細胞毒性はないとみている。

 今後さらに安全性に配慮しつつ、UV吸収剤だけでなく光触媒としての新たな用途も開発していく。