[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

曇り止め用透明被膜に新技術―3時間で傷を自己修復:産業技術総合研究所

(2022年8月8日発表)

 (国)産業技術総合研究所は8月8日、傷がついても自ら修復する曇り止め用の透明被膜を簡単に作製する技術を開発したと発表した。レンズや太陽光電池パネルにコーティングするだけで、傷がついても3時間程度で自ら修復して透明度を回復する。眼鏡やセンサーなどの曇り止め防止、太陽光パネルの効率低下を防ぐ効果などが期待できる。今後、被膜の安全性の確認や塗装法などの検討を進め、企業との連携後3年以内の実用化を目指す。

 新技術は、いずれも市販品の水溶性高分子「ポリビニルピロリドン」と人工粘度粒子、アミノ基含有水系シランカップリング剤を用いる。これらを水の中で混ぜてガラス表面などに均一に薄く塗布、加熱・乾燥するだけで曇り止め防止用の透明被膜が作れる。原料の添加量を変えることで透明度の調整も可能で、可視光を90%以上透過できる透明性も実現できる。

 実験では、この被膜で覆ったガラスを冷却した後に加湿器から出る高湿度空気にさらしたが、まったく曇らなかった。さらに、約700nm(ナノメートル、1nmは100万分の1mm)の厚さの被膜に外科用メスで最大30μm (マイクロメートル、1µmは1,000分の1mm)の傷をつけてもわずか30分でほとんどふさがり、3時間後には自然に元通りになった。従来技術では、被膜の作製に数日かかるなど効率が悪く、傷ついた後に自己修復するのにも新技術の8倍以上の24~48時間もかかるなど、その実用性には課題が残されていた。

 ガラスやプラスチックなどの透明機材は、表面に傷ができると透明度が落ちるほか、高湿度環境下で急激な温度変化にさらされたときに表面に水滴ができて曇りやすくなる。それが自動車や建物の窓ガラス、眼鏡が見えにくくなったり、医療・分析機器やセンサーの誤動作、太陽光パネルの効率が低下したりする原因になっており、傷を自己修復できる高性能な曇り止め透明被膜が求められていた。