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植物の環境耐性強める遺伝子―新品種開発に応用も:東京農業大学/農業・食品産業技術総合研究機構

(2022年6月23日発表)

 東京農業大学と(国)農業・食品産業技術総合研究機構は6月23日、植物の全身を覆って乾燥や塩分、高温などの環境耐性を高めるワックス量を調整する遺伝子を発見したと発表した。研究用のモデル植物として広く使われているシロイヌナズナを用いて突き止めた。温暖化によって干ばつや塩害、高温障害が多発する中で、幅広い環境変動に強い品種を作るのに応用できると期待している。

 研究グループは今回、自然界にもともと存在する、水不足に強いシロイヌナズナの野生種を用いて人為的に突然変異を起こさせ、水不足に弱くなった突然変異株を作成した。この変異株を野生種と比較したところ、乾燥や塩分、高温に強いという野生株が持っている元の性質が失われていることが分かった。

 さらに、その原因になっている遺伝子を調べた結果、植物の根や葉、茎などを覆っているワックスの構成成分で炭素原子が20個以上つながった極長鎖脂肪酸を作る働きをしていることを突き止めた。また、水不足に弱くなったこの突然変異株を野生種と比較したところ、ワックスの量が著しく減少していることも分かった。

 これとは別に研究グループは、数百の遺伝子を個別に過剰に働くようにしたシロイヌナズナの変異株を用い、水不足に強い品種を探した。その結果、特定の遺伝子「KLU遺伝子」を過剰に働かせる品種では、植物体表面を覆うワックスの構成成分である長鎖・極長鎖脂肪酸の量が増加し、乾燥や塩分、高温に著しく強くなっていることを突き止めた。

 これらの結果から、研究グループは「KLU遺伝子の発現調節によりワックスを増加させて植物の乾燥・塩・高温耐性を増強できることが明らかになった」として、幅広い環境変動に適応する作物育種に応用できると期待している。