乳牛の乳房炎早期診断に新手法―NMRで黄色ブドウ球菌感染を検出:理化学研究所ほか
(2019年10月24日発表)
(国)理化学研究所と(国)農業・食品産業技術総合研究機構は10月24日、牛乳生産に大きな被害をもたらす黄色ブドウ球菌による乳牛の乳房炎を早期診断する有力な手法を発見したと発表した。医療画像診断にも使われる核磁気共鳴(NMR)の原理を応用し、乳汁内の菌の増殖が初期段階で検出できることを突き止めた。超小型NMR装置を搾乳機に設置して乳房ごとにモニターできるようにすれば、酪農作業の省力化や生産性向上に役立てられると期待している。
研究チームが用いたのは、静磁場内に置いた試料に高周波パルスを照射、その応答信号から試料内部の状態を検出する小型のパルスNMR装置。これで乳汁に含まれる微粒子の質量当たりの表面積(比表面積)を測定するとともに、乳房炎の炎症症状の指標となる乳汁体細胞数との関係を調べた。
その結果、黄色ブドウ球菌に感染した乳房から採取した乳汁の比表面積は、健康な乳房の乳汁よりも低い値を示すことが分かった。これは乳房内で黄色ブドウ球菌が増殖する際に乳酸発酵によって乳たんぱく質(主にカゼイン)の微粒子が凝集し、見かけ上の比表面積が減少したためという。実際に、健康な乳房から採取した乳汁を乳酸発酵させた実験でも、時間の経過とともに比表面積が低くなることを確認した。
研究グループは、これらの結果から「NMRによる乳汁計測によって乳房炎発症の有無に加え、原因菌を推定できることを示している」としている。さらにNMRによる乳汁検査で黄色ブドウ球菌感染以外の乳房炎に対しても判別可能になるとして、今後は人工知能とも連動させて信頼性の高い乳房炎検査技術に発展させたいとしている。