大地震による「表層崩壊」がもたらす環境変化を解明―河川の水質や微生物への影響を解析:産業技術総合研究所
(2025年8月4日発表)
(国)産業技術総合研究所(産総研)は8月4日、地震による「表層崩壊」がもたらす環境への影響を、北海道で過去に起きた大きな地震を例に解析し、水資源や微生物生態系を保全するための重要な知見を得たと発表した。
表層崩壊は、山の斜面で厚さ1m~数m程度の表層部分が地震などによって崩れ落ちる地滑りのこと。世界各地で多発していて、特に山地が国土の多くを占めている日本では例年頻発していて甚大な人的・経済的被害が生じ大きな問題になっている。
たとえば、2018年9月6日に起きた「北海道胆振(いぶり)東部地震」。道内で過去最大の震度7の揺れを観測したこの地震では、道央南部の厚真町(あつまちょう)・安平町(あびらちょう)の山間部斜面で総数6,000以上もの表層崩壊が発生して多数の死者を出した。
こうしたことから表層崩壊は、土砂災害のトリガーとして広く認識され、発生メカニズムや地形学的な挙動の解明が進められている。
しかし、表層崩壊がもたらす環境の変化については、まだほとんど注意が向けられていない。
今回の研究は、表層崩壊の発生がそのエリア内の河川の水質や微生物生態系に及ぼす影響を明らかにしようと、胆振東部地震で表層崩壊が多発した厚真町・安平町を対象に産総研ネイチャーポジティブ技術実装研究センターの研究グループが取り組んだ。
研究は、規模の異なる37の表層崩壊から河川水を採取し、表層崩壊で生じた堆積物の内部を通過してきた湧水を24か所で汲み取って、先ずこれらの水試料の電気伝導度、酸アルカリ度、溶存酸素、酸化還元電位、温度に加え、硝酸イオン、アンモニウムイオン、硫酸イオン、炭酸水素イオンといったイオン濃度を明らかにし、崩壊堆積物中に存在する微生物の種類を調べる遺伝子解析を行った。
その結果、崩壊堆積物の内部には、周辺の普通の環境より酸素の乏しい環境が存在し、湧水の中から酸素の無い環境で生息する嫌気性微生物が多く見つかった。
そして、崩壊堆積物内で、脱窒(硝酸イオンの還元)や硫酸還元、マンガン酸化物や鉄の水酸化物などの還元(酸素を受け取って新しい物質が作られる反応)が活発に行われていることを掴んだ。
さらに、それらの還元反応は、崩壊堆積物中に存在している有機物の酸化と連動して進行していて、さまざまな物質が還元されていることを見つけた。
研究グループは今回の研究で「北海道胆振東部地震による表層崩壊が河川の水質や微生物コミュニティ-(微生物の集まり)に与えた影響が明らかになった」と話している。今後さらに進めて崩壊堆積物の内部で進行する微生物活動を突き止めたいとしている。