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体内時計の周期が温度に影響されない仕組み解明―遺伝子活性の波形が高温でひずんで周期を保つ:理化学研究所ほか

(2025年7月23日発表)

 (国)理化学研究所と京都大学の共同研究グループは7月23日、睡眠と覚醒のタイミングをつかさどる体内時計の周期が温度に影響されない仕組みを解明したと発表した。理論物理学の手法を用いて解けたという。

 体内時計は、多くの生き物が持っている、約24時間の周期で身体のリズムを刻む仕組みのこと。昼夜の区別がつきにくい暗い洞窟内にいても、ヒトはまるで身体の中に時計があるかのように、寝起きをほぼ24時間の周期で繰り返す。

 この役目を司っている体内時計は、様々な生化学反応がネットワークのようにつながって動くことで働いている。普通、生化学反応は温度が高くなると速くなるが、体内時計の周期は、気温や体温が変わっても、ほぼ24時間のまま変わらない。

 この性質は「周期の温度補償性」と呼ばれ、周期が温度で変化しない理由については様々な仮説が提案されてきた。しかし、その仕組みはよく分かっていない。

 研究グループのメンバーによるこれまでの研究で、周期を保つためには高温で体内時計の遺伝子活性の波形がひずむことが必要なことが理論的に示されていた。ただ、波形のひずみ方は不明で、高温で波形がひずむことの実験的な裏付けもなかった。体内時計には、昼と夜の光のリズムに合わせて動く、つまり昼と夜の光のリズムに同期するという性質があるが、波形のひずみと同期の関係も解明されていない。

 今回、研究グループは、体内時計の数理モデルを「くりこみ群法」と呼ばれる理論物理学の手法を用いて解析した。

 体内時計の数理モデルは、実際に観測される遺伝子活性の24時間周期変動などを数式に簡略化し、記述したもの。くりこみ群法は、量子物理学の下で発展してきた解析技法で、時間的に緩やかに変調する周期解の解析に適している。

 解析の結果、遺伝子活性の時間的な変化の形、つまり遺伝子活性の波形が、高温になるとひずむことが、周期を安定化するカギであることが示された。すなわち、体内時計は高温で遺伝子活性の波形がひずむことで周期を保つ、という仕組みであることが解明された。

 また、体内時計が昼夜のリズム、いわゆる光サイクルに合わせるためにも重要であることが示されたという。今回の研究成果は、体内時計の仕組みを新しい視点から説明する枠組みの提供にあたるとしている。