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肝臓でのインスリン作用解明―生活習慣病治療に新しい道も:筑波大学ほか

(2019年10月11日発表)

 筑波大学と滋賀医科大学の研究グループは10月11日、血糖値を制御するインスリンの肝臓内での働きにセラミドと呼ばれる脂質の「脂肪酸鎖長(炭素数)」が重要な役割を担っていることを発見したと発表した。肝臓内で脂肪酸の炭素数を制御している酵素の役割もマウスを用いた実験で明らかにした。脂肪肝や糖尿病など生活習慣病の新たな治療法に道をひらくと期待している。

 炭水化物の過剰摂取や脂肪肝では肝臓における脂肪酸の合成が活性化し、インスリンが効きにくくなり血糖値がうまく制御できなくなることが知られている。ただ、どんな脂肪酸が原因になっているのかなど、詳細なメカニズムはよく分からなかった。

 研究グループはこれまでの研究から、脂肪酸の中でも炭素数16個のパルミチン酸から18個のステアリン酸に変化する際に働く酵素「Elovl6」が、過栄養時に特に活性化することなどを明らかにしてきた。そこで今回、この酵素の役割に注目、遺伝子工学の手法でこの酵素を作れないようにしたマウスを用いた実験などを進めて詳しい解析を試みた。

 その結果、肝臓でのインスリン作用には、①セラミドと呼ばれる脂質を構成する炭素数が重要、②炭素数の制御には脂肪酸伸長酵素のElovl6が重要な役割を担う、③マウスの肝臓内でElovl6が働かないようにすると炭素数18の脂質が減少し、インスリンがよく効くようになることなどが明らかになった。

 これらの結果から、研究グループは「肝臓における脂肪酸伸長酵素(Elovl6)の阻害やセラミドの脂肪酸の質の管理が、脂肪肝や糖尿病に対する治療の標的として有用であると考えられる」とみている。