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田の水張りと水抜きの間断かんがいが、農家利益と温暖化対策に効果―メコンデルタで確認したエコベネフィットを、アジア地域へ展開を:国際農林水産業研究センター

(2022年6月23日発表)

 (国)国際農林水産業研究センター(国際農研)は6月23日、ベトナム・メコンデルタの稲作農業を調査した結果、水田に水を張る湛水(たんすい)と、水を抜く落水(らくすい)を、こまめに繰り返す「間断かんがい」農法が、農家の利益を増やし温室効果ガスも削減できるエコベネフィット(相乗利益)のあることを確認したと発表した。アジアモンスーン地域の気候変動対策に展開できると有望視している。

 ベトナム南部のメコンデルタは、肥沃な低地が広がり降水量も多く、水稲作が盛んに行われている。しかし上流のデルタは洪水の常襲地帯で、毎年8月-11月の氾濫シーズン中は稲作ができなかった。

 近年は堤防建設やイネの品種改良、機械化農業の導入、化学肥料の投入など農業近代化の推進で、三期作栽培が急拡大した。その反面、メタンガスの増加など新たな課題が生じてきた。

 水田の土壌は酸素のない嫌気的な環境にある。嫌気性微生物の働きでメタンが発生し、大気への放出が増える。メタンは温室効果ガスの影響が大きく、20年の短期で二酸化炭素の84倍の効果をもたらす。日本ではイネの生育途中で落水し、土壌を乾かす「中干し」によってメタン発生を抑えてきた。

 「間断かんがい」とは、施肥時期と開花期を除き、年間を通じて種をまいた後10日-20日の10日間は水を抜いて土壌上部を15cm程度乾燥させる。その後、5cm程度を湛水する作業を、一期作中に数回繰り返す水管理技術をいう。土壌に酸素が供給されメタン排出量が抑制されることから、モンスーン地帯ではかんがい水使用量と温室効果ガス排出量を同時に減らす技術として注目されていた。

 国際農研は、この間断かんがいを普及しようと研究を始めたが、農家の利益や温室効果ガスの排出を包括的には捉えきれていなかった。そこでベトナム・メコンデルタのアンジャン省の農家の調査データ(2019年-2020年)を使い、各作付け時期と農家利益の変化、間断かんがいの実施と未実施の違いによる生産から収穫までに発生する温室効果ガスへの影響を調べた。

 「夏秋作」(4月-8月)、「秋冬作」(7月-11月)、「冬春作」(11月-4月)の三期作を、間断かんがいの「実施」農家と「未実施」農家に分け、それぞれ100戸ずつ、合計600戸を対象に調査。生産管理で発生する農業資材、農機具、燃料、賃金などと売上に関するデータも収集した。

 その結果、「実施」農家では水管理費や肥料費のコストが抑えられた。農家の利益は、「未実施」に比べ夏秋作で14%、秋冬作3%、冬春作1%、年間で6%増えた。また温室効果ガスは、「実施」農家で削減効果があり夏秋作40%、秋冬作37%、冬春作35%で、年間を通じ38%の削減が明らかになった。

 実施農家は未実施農家に比べて利益が得られると同時に、生産から収穫までの温室効果ガスの削減が可能になり、実施のメリットを算出できた。

 通年の間断かんがい実施は、農家の増益と温室効果ガスの軽減が両立できるエコベネフィットな農業であり、アジア地域への展開によって気候変動対策にも期待が持てるとしている。