落葉が土壌有機物に変化する過程を解明
:森林総合研究所/農業環境技術研究所

 (独)森林総合研究所は9月9日、(独)農業環境技術研究所と共同で、落葉などの有機物組成(有機物を構成する要素・成分)を破砕せずそのままの状態で調べることができる「固体13C核磁気共鳴法(固体13C NMR法)」を用いて、世界で初めて落葉が土壌有機物へ変化していく過程を明らかにしたと発表した。
 今回の研究では、森林土壌への炭素供給、蓄積プロセスの実態を把握するため、北関東の天然林でブナとミズナラの落葉の腐朽・分解する過程を3年間調べた。
 落葉には、炭素の結合の形から区分される「O(オルト)-アルキル態炭素」(主に植物体内のセルロースなどの多糖類を構成する有機炭素)、「芳香族態炭素」(リグニンやタンニン中に存在するベンゼン環を構成する炭素)、「脂肪族態炭素」(細胞膜内に存在する脂質などを構成する直鎖状炭素)、「カルボニル態炭素」(有機物の分解に伴う酸化反応によって生成する炭素)の4グループの有機物が含まれる。
 調査の結果、ブナとミズナラの新しい落葉はいずれもO-アルキルグループが主成分であった。4グループの有機物の内、主要成分であるO-アルキルグループの有機物の分解速度が、最も大きいことが分かった。また、両樹種の成分組成は異なっており、ブナの新しい落葉はミズナラに比べてO-アルキルグループを多く含んでいるが、その分解速度はブナの方がミズナラより大きいため、両樹種の有機物組成は3年後にはほぼ等しくなり、土壌の有機物組成に近づくことも分かった。
 有機物組成ごとの分解速度を基にして、林床(森林の地表面)の有機物集積量を推定した結果、10年間で1ヘクタール当り総計4tの炭素が林床に蓄積されることも明らかになった。
 これまで有機物の組成分析は、落葉と土壌それぞれの対象物によって異なる方法で調べる必要があった。いずれの方法でも酸、アルカリなどの薬品で処理し、有機物を細かく断片化して調べるため、本来の構造を正確に知ることはできなかった。
 「固体13C NMR法」では、有機物を断片化することなくそのままの状態で調べることにより、有機物本来の化学構造や組成の量的変化を明確にすることができる。この方法は、落ち葉や枯れ枝、土壌有機物を直接比較できるので、実測データに基づいた森林への炭素蓄積メカニズムの包括的な理解が可能となる。
 この手法によって、森林への炭素蓄積のメカニズムの包括的な理解が可能となり、地球温暖化対策研究の進展に貢献することが期待される。

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