高エネルギー加速器研究機構と(独)日本原子力研究開発機構は9月11日、東北大学の協力を得て「非弾性中性子散乱実験」と呼ばれる物質内の原子の運動状態を調べる実験の測定効率を飛躍的に上げる手法を見つけ、その実証実験に成功した発表した。
非弾性中性子散乱とは、物質に中性子が入って散乱する際、散乱の前と後とで中性子のエネルギーが変化する散乱のこと。中性子ビームは、物質を構成する原子の運動にエネルギーを与える(または受け取る)ことで速度が変わるため、この散乱の過程を非弾性中性子散乱実験で観測し、中性子が検出器に到達した時刻を正確に計測すれば物質内の原子の運動(ダイナミクス)を調べることができる。
しかし、これまでの非弾性中性子散乱実験は、検出器に中性子が到達しない時間(不感時間)が非常に長く、測定効率が悪い難点があった。
今回の成果は、非弾性中性子散乱実験に使う「チョッパー」と呼ばれる試料に当てる中性子ビームのエネルギー(入射エネルギー)を選択する回転装置の構造に工夫を凝らすと共に、両機構が所有する「J-PARC(大強度陽子加速器施設)」(茨城・東海村)で開発した最新のデータ解析システムを活用して測定効率を大幅に上げることに成功したもの。
両機構と東北大は、文部科学省の助成を受けてJ-PARCのビームラインに「J-PARC中性子実験装置『四季』」と呼ぶ実験装置を設置して新手法の実証を行った結果、物質内の原子運動の全体像が近い将来僅か5分程度の短時間で一挙につかめるようになることが分かった。両機構は、「全く新しい物性研究のフロンティアを切り開くことが予見される」と言っている。
No.2009-36
2009年9月7日~2009年9月13日