(独)農業生物資源研究所は8月17日、イネ科植物の病原性のカビである「いもち病菌」が、植物の自然免疫システムをかいくぐって感染する機構を解明したと発表した。
植物には、カビが侵入すると反応し、攻撃する自然免疫システムがある。このシステムは、カビが共通して持っている細胞壁成分(β-1,3-グルカンやキチンなど)を認識し、次いでカビの細胞壁を分解する酵素を作り出して攻撃する。
イネの自然免疫系システムでも、カビが侵入するとカビの細胞膜成分を認識し、分解酵素を分泌して攻撃する。しかし、イネの病原性カビであるイネいもち病菌は、なぜかイネの免疫システムをかいくぐってイネに感染する。いもち病菌が、イネの自然免疫システムを「かいくぐる」メカニズムは、長い間分かっていなかった。
研究グループは、イネいもち病菌が、キチンなどの細胞壁成分を何らかの方法で隠して、免疫系の攻撃を回避するメカニズムを持っていると仮定し、イネ細胞に侵入しているイネいもち病菌の細胞壁の解析を行った。
ガラス基板の上で発芽させたいもち病菌の細胞壁の表面では、β-1,3-グルカンやキチンといった成分が検出された。一方、イネ細胞に侵入しているいもち病菌の細胞壁には、β-1,3-グルカンやキチンが検出されず、いもち病菌の表面にα-1,3-グルカンという物質の蓄積がみられた。このα-1,3-グルカンを菌の表面から除去したところ、病菌からβ-1,3-グルカンやキチンが検出された。イネは、β-1,3-グルカンなどを分解する酵素を持っているが、α-1,3-グルカンを分解する酵素は持っていない。
研究の結果、イネいもち病菌は、α-1,3-グルカンで菌の表面を覆うことにより、イネの自然免疫システムに探知されずに感染する“ステルス作戦”のようなことをしていることが分かった。
この研究により、「感染カビは、どのようにして植物の自然免疫システムに攻撃されずに感染するのか?」という謎を解くことができた。現在、この成果を活用して、α-1,3-グルカンの分解ができる植物の作出やα-1,3-グルカンの合成を阻害する薬剤の開発に向けた研究を続けている。
No.2009-33
2009年8月17日~2009年8月23日