イネの品種改良に新たな道拓く「いもち病」抵抗性遺伝子を発見:農業生物資源研究所/愛知県農業総合試験場 / 石川県立大学など

 (独)農業生物資源研究所は8月19日、愛知県農業総合試験場、石川県立大学などと共同で、陸稲(オカボ)から、新しいタイプの「いもち病」抵抗性遺伝子を発見し、さらにその遺伝子のゲノム情報を利用して、美味しく、いもち病に強い品種の開発に成功したと発表した。
 いもち病は、イネに病原性のカビが広がる病害で被害額は年間数百億円にも上っている。これまでも、品種改良により、いもち病に強いイネを作るため、陸稲を利用した研究が進められてきた。陸稲は、多くのいもち病菌に強く安定した生育を示す“圃場抵抗性”を持っている。しかし、交配により陸稲のいもち病抵抗性を水稲に導入した場合、いもち病には強くなるものの、食味が低下するため、実用的な品種を作ることはできなかった。
 研究グループは、これまでに陸稲には少なくとも3個の圃場抵抗性遺伝子があり、中でも「pi21」と呼ばれる遺伝子が最も重要な働きをしていることを明らかにした。
 今回の研究では、まず遺伝学的な解析により「pi21」遺伝子の染色体上の位置やその構造や機能などを調べた。その結果、「pi21」遺伝子は、新しいタイプの抵抗性遺伝子であることが分かった。
 また、食味の低下する原因が、陸稲型の「pi21」遺伝子の近くに食味を損ねる遺伝子があり、従来の品種改良では両遺伝子が同時に新品種に取り込まれてしまうためであることを明らかにした。このため、ゲノム情報を利用した新たな育種法により、食味を損ねる遺伝子を切り離して陸稲型の「pi21」遺伝子だけを水稲に導入し、食味も良く、いもち病にも強い品種「中部125号」を作りだした。
 今回の研究成果は、ゲノム情報を利用した農業形質(遺伝的性質)の解析が「植物が病気に強くなる」仕組みの解明に役立つことを示した。
 また、遺伝子の正確な位置情報を得ることによって、これまでの品種改良では難しかった不要な遺伝子を除外し必要な遺伝子だけを取り込むことが可能になった。これにより、いわゆる「デザイン育種」の実現性が見えてきたわけで、品種改良の高度化につながるものと期待されている。
 この研究成果は、米国の科学誌「サイエンス」の8月21日号に掲載された。

詳しくはこちら

いもち病激発地での陸稲型「pi21」遺伝子を持ったイネ「中部125号」(写真右側)と、普通の「コシヒカリ」(左側)(提供:農業生物資源研究所)