(独)物質・材料研究機構と(独)理化学研究所は10月17日、(株)神戸製鋼所や日本電子(株)との共同研究で、世界で初めて酸化物系超電導コイルを使用した高分解能NMR(核磁気共鳴)装置を開発し、タンパク質の高分解能NMR測定に成功したと発表した。
NMR装置は、外部磁場を発生する磁石と分光計システムから構成されている。NMR装置は、磁場の増加に伴い感度と分解能が大幅に向上するため、強磁場化が望まれており、世界各国で開発が進められている。
ビスマス系をはじめとする酸化物系高温超電導線材は、強磁場で優れた性能を示すため、強磁場を必要とするNMR装置への適用が期待されている。しかし、NMRで求められる磁場を時間的に安定に保つことや、空間的に均一な磁場を形成することが難しいため、実用化されていなかった。
研究チームは、酸化物系高温超電導磁石の発生磁場を従来のNMR装置と同程度の時間的安定度と空間的均一度にする方法の研究開発に取り組んだ。その結果、[1]テープ状酸化物系超電導線材の精密巻線技術、[2]超電導磁石を冷やす液体ヘリウムを長時間保持できるクライオスタット(極低温恒温装置)、[3]世界最高レベルの電流安定度を持つ磁石駆動用外部電源、[4]電源により生じる変動磁場を補償する磁場安定化技術、の4つの開発に成功した。
これらの技術を組み合わせることで、酸化物系超電導コイルを用いたタンパク質の精密NMR測定を実現し、磁場の安定度と均一度が得られることを実証した。
金属系超電導線材を使ったNMR装置の磁場強度は、すでに使用限界にあと一歩のところまで迫っているが、その壁を越えるNMR装置の実現に向け、突破口が開かれたことになる。
この研究成果は、11月12日から高知市で開催される低温工学・超電導学会で発表される。
No.2008-40
2008年10月13日~2008年10月19日