酸化銅のナノ粒子に温度が上がると「縮む」性質があることを発見:産業技術総合研究所/佐賀大学/理化学研究所

  (独)産業技術総合研究所と佐賀大学、(独)理化学研究所は10月20日、磁性体の酸化銅のnm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)サイズの粒子が、低温領域において、温度が上がると縮むことを世界で初めて発見したと発表した。-100ºC以下の領域という条件付きだが、磁性体ナノ粒子のこのような負の熱膨張現象はこれまで全く知られておらず、原理的にも注目される。磁気と結晶格子の相互作用が磁性体ナノ粒子の負の熱膨脹現象を産み出すメカニズムらしい。
 金属やセラミックスなどは「熱すると膨らみ、冷やすと縮む」のが普通だが、特定の物質は温度が高くなると縮むという「負の熱膨張(負熱膨張率)」を示すことが知られている。たとえば、タングステン・ジルコニウムというセラミックスの負熱膨張率は、1ºC当たり-2.6×10-5である。新発見の酸化銅は、磁性を現す磁気転移温度(約-50ºC)以下の-100ºCの温度領域で、タングステン・ジルコニウムの4倍もの負熱膨張率を示すという。
 研究チームは、気相法という手法で作った酸化銅の純良単結晶(不純物や欠陥の少ない単結晶)のナノ粒子を、播磨科学公園都市(兵庫)の大型放射光施設「SPring-8 」のビームラインを用いて、粉末X線回析で解析して今回の成果を得た。また、同じ磁性体仲間の2フッ化マンガンと酸化ニッケルも同様に測定。その結果、磁気と結晶格子の相互作用が強い2フッ化マンガンのナノ粒子は、酸化銅同様に負熱膨張率を持つが、磁気と結晶格子の相互作用があまりない酸化ニッケルは負熱膨脹率を示さないことが分かった。
 磁性体ナノ粒子での負の熱膨脹の発見は、今後のナノテクノロジーやナノサイエンスの進展に直結する。もっと高温で負熱膨張率を持つ材料を発見し、他の実用材料と複合化すれば材料の熱膨脹を制御出来る。極限環境でもヒビ割れのない機器や電子部品が実現するかもしれない。   
 研究チームは、更に物質探索を進め、磁性体ナノ粒子と構造材料、薄膜基板、耐熱被覆材、ガラス・セラミックス・コンクリートなどとの複合材料への応用などを目指している。

詳しくはこちら