
六ホウ化ランタン(LaB6)ナノワイヤ電子源を組み込んだ電界放射型走査電子顕微鏡での観察例。低電圧(5kV)による金微粒子の顕微鏡像。20万倍に拡大しても鮮明な画像となっている(提供:(国)物質・材料研究機構)
(国)物質・材料研究機構の極限計測ユニットは12月1日、電子顕微鏡の新たな電子源として六ホウ化ランタン(LaB6)の単結晶ナノワイヤ作成に成功し、さらにこの電子源の表面をクリーニングして、高性能化と安定性を高める技術も開発したと発表した。これまでのタングステンの電子源を交換するだけで、輝度が100倍に、エネルギー幅が3分の2に高められることを実証した。
■X線装置などの計測・分析装置の向上にも
光で見る光学顕微鏡に対して、電子顕微鏡は光よりも波長の短い電子線で観察し、ウイルスや結晶の微細構造などを見ることができる。性能は、光学顕微鏡が倍率で表示するのに対し電子顕微鏡は分解能で表す。分解能を高めるには高い輝度が必要で、電子源の高性能化が求められていた。
これまで使われていたタングステン電子源より、ランタン系の電子源の方が電子の放出が容易で、化学的にも安定で優れているものの、ランタン系は極めて硬いためにナノワイヤが作りにくかった。
物材機構は米国ノースカロライナ大学と協力し、六ホウ化ランタンの原料を含む反応性の高いガスを基板上に堆積させる化学気相堆積法(CVD)を使い、電子顕微鏡の電子源に使えるようなナノワイヤを世界で初めて開発した。この電子源の表面の汚れは、水素雰囲気中で電圧をかけ蒸発させた。
六ホウ化ランタンのナノワイヤ電子源を組み込んだ電子銃を、電子顕微鏡に装着して特性を調べたところ、従来と比べて電流密度が1000倍大きく取れた。さらに安定性もよくノイズも少なかった。金の微粒子を20万倍に拡大しても鮮明な画像が得られた。
この電子源の性能向上は、今後、電子顕微鏡だけでなく医療用X線装置や電子線描画装置などの計測・分析装置の性能を格段に高めるものと期待されている。