福島県避難指示区域内外の飛翔性昆虫分布を調査
―益虫の減少や害虫の大発生は現時点で見られず
:国立環境研究所(2015年11月12日発表)

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昆虫採集に用いたマレーズトラップ。テント状に布を張り、それによって移動を妨げられた昆虫が上方に向かううちに設置されたビン内に誘導されるという仕組みの昆虫採集装置。広範な昆虫類、特にハチやハエ類等の飛翔性昆虫類を定量的に採集することが可能(提供:(国)国立環境研究所)

 (国)国立環境研究所は11月12日、原発事故に伴う福島県の避難指示区域内外での飛翔性昆虫の分布調査結果を発表した。益虫が減少したり害虫が大発生するといった大きな変化は2014年時点では見られなかったという。

 

■9市町村の47地点でサンプル取得

 

 原発事故に伴う耕作等の営みの停止は環境変化を招き生態系を大きく変える可能性がある。そこで同研究所は避難指示区域(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域)とその周辺での生態系変化の把握を目的に、ハチ・ハエ類等の飛翔性昆虫を対象に分布調査を実施した。

 調査は、9市町村の52の小中学校校庭に2014年5月中旬から7月中旬にかけて昆虫採集装置マレーズトラップを設置、47地点で分析可能な昆虫サンプルを取得した。

 体長約4mm以上のハチ目、ハエ目、コウチュウ目、カメムシ目、チョウ目、クモ目について計数した結果、キムネクマバチのみが避難指示区域内において個体数が顕著に少なかった。キオビツヤハナバチ、キマダラハナバチ属などは避難指示区域内で増えている傾向が認められたが、他の分類群では避難指示区域内外で個体数に統計的に顕著な差は見られなかった。

 キムネクマバチが避難指示区域内で採集されなかったのは、避難による園芸植物の減少等が関係しているかもしれないという。また、区域内で一部分類群の個体数の増加が見られたのは、耕作停止によって繁茂した植物類が餌資源や生息場所を提供したためと考えられるという。

 これらの結果から、多様性の著しい喪失は生じていないことが示されたとしている。

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