東アジア域での降雨減少は熱帯域の海水温の影響
―気候モデルを基に熱帯の海域ごとに変化を再現
:筑波大学(2015年11月13日発表)

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近年の世界的な海水温の分布とその東アジア域への影響。1999~2013年の特徴を1979~1998年の平均値と比べて示したもの。断面図は南緯5度から北緯5度の平均値。熱帯西部太平洋では、水深150m付近に1.5℃程度のピークを持つ高温の海水が存在し、海面の水温も高い。インド洋でも全体的に海面水温が高い。一方で熱帯東部太平洋では冷たい海水が分布しており、太平洋上で明瞭な東西差が確認できる(提供:筑波大学)

 筑波大学生命環境系の植田宏昭教授らは11月13日、日本や中国など東アジアの中緯度帯でこの十数年間続いていた夏場の降水量の減少の原因が、遠く離れた熱帯太平洋とインド洋の海水温の影響によるものと発表した。コンピューターの気候モデルに海水温度などを細かく投入して計算し、夏季降水量の変化の再現に成功した。熱帯域の顕著な海水温度が、これまで知られていたよりも南北方向に広い範囲で影響し、中緯度の自然変動と同じくらいに気候を大きく変えていることが明らかになった。

 

■従来より南北に広く影響

 

 地球温暖化が進むと、アジアモンスーン地域は降水量が増えるとの予測があるものの、ここ十数年間は地域差が大きかった。フィリピン付近の1カ月の降水量は、例年の18mm増で、インド洋付近(同6mm増)とともに多いが、反対に中国北部の黄河流域や日本付近では例年より6mm少ないことが観測で確認されている。

 降水量の地域的な変動はたくさんの要因が複雑にからむため、原因解明や予測が難しい。特に日本などの中緯度帯は自然の変動が大きく、遠い熱帯の影響がどのくらい関与しているかがつかみにくかった。植田教授らは気象研究所の「大気大循環モデル」を使い、「熱帯太平洋」「熱帯インド洋」「熱帯大西洋」と熱源を海域ごとに分け、海水温度を少しずつ変えながら複数の詳細な再現実験を繰り返した。

 その結果、熱帯西部太平洋の海面水温が高いとフィリピン付近の対流活動が活発化し、この付近の降水量を増やすと同時に、雨に変わるときに吐き出す凝結熱が大気の流れを変えて隣接海域の対流活動を抑えてしまう効果があり、東アジアでの中緯度で降水量現象をもたらすことが明らかになった。これまでは、中国の長江流域が影響を受けやすいと考えられてきたが、10年規模の降水量の変動では、中国北部から日本付近にかけての降水量も減らすことが解明された。

 こうした太平洋の特徴的な海水温分布は、グローバルには地球温暖化の停滞につながり、地域的には降水量の増減や異常気象の発生に影響する可能性があるため、今後も解明を続ける必要があるとしている。

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