筑波大学と筑波技術大学は2月5日、聴覚障害の有無がその人の社会経済的な状況や健康状態などにどう関係しているかを分析した結果を発表した。厚生労働省の「2007年度国民生活基礎調査」のデータを分析したところ、特に女性で聴覚障害がある場合は、配偶者がいなかったり喫煙していたりする人の割合が高いことが分かった。性別や個々人の特性に配慮したきめ細かな障害者支援制度を作るのに役立つという。
■精神的な健康感でも関連性
筑波大医学医療系の田宮菜奈子教授と大学院生の小林洋子さん(現在は筑波技術大助教としても在職)らが、国民生活基礎調査にある20~39歳の13万6849人を対象に、就労状態や配偶者の有無、喫煙の有無、精神的健康状態を分析した。健康状態についての質問に「聴こえにくい」と自覚症状を訴えた人を「聴覚障害あり」、それ以外の人を「聴覚障害なし」とし、他の調査項目との関連性を調べた。
その結果、全体的には聴覚障害の有無と統計学的に有意の(意味のある)関連性が確認されたのは、精神的な健康感と喫煙だった。聴覚障害ありの人は、ない人に比べると健康感が悪く喫煙する割合も高かった。さらに性別ごとに分析したところ、特に聴覚障害ありの女性では「配偶者がいない」「喫煙している」人の割合が、聴覚障害のない人に比べて有意に高いことがわかった。
これまで一般的に聴覚障害のある人は、ない人に比べて経済格差や健康格差があるといわれていたが、全国レベルの実証データに基づく実態分析は今回が初めて。また、男性と女性の違いについて分析した研究はこれまでほとんどなかったという。
日本は2014年に「障害者の権利に関する条約」を批准、2016年には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行される予定。聴覚障害者についても新たな支援体制の構築が政策課題になっているが、研究グループは「政策決定の過程では、障害者をひとくくりにするのではなく、性別および個々人の特性を考慮した政策の評価と検討を行うことが重要」と言っている。