電気伝導性と磁性が切り替わる純有機物質を開発
―水素結合の制御によりスイッチング現象発現
:東京大学/高エネルギー加速器研究機構ほか(2014年8月26日発表)

 東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)、(一財)総合科学研究機構らの研究グループは8月26日、電気伝導性と磁性が同時に切り替わる純有機物質を開発したと発表した。このスイッチング現象は水素結合を制御することによって生じるもので、新たな低分子系純有機素子や薄膜デバイス開発への展開が期待できるという。

 

■マイナス88℃付近で急激に変化

 

 水素結合は、水をはじめタンパク質やDNAなど身の回りの物質に存在し、生命活動などに必要不可欠な役割を果たしている。この水素結合を利用して分子やイオンを物質中で上手に連結すると、その物質の誘電性やイオン伝導性を制御したり切り替えたりできることが知られているが、水素結合を用いた切り替えの成功例は、これまで誘電性などごく一部の物性に限られていた。

 研究チームは今回、電気伝導性と磁性をある温度で同時に切り替えることができる有機物質を作り出すことに成功し、この切り替えが熱による水素結合部の重水素移動と電子移動の相関に基づく新しいスイッチング現象であることを解明した。

 開発したのは金属や無機元素をまったく含まない純有機結晶物質で、2個の有機分子が重水素を介した水素結合により連結されたユニット構造から成る。

 この物質の電気抵抗率を、温度を下げながら測定したところ、185K(マイナス88℃)付近で急激に変化し、半導体から絶縁体に変化したことが認められた。同様に磁化率を測定したところ、同じ185K付近で急激に変化し、常磁性状態から非磁性状態への変化が認められた。

 加熱しながら測定した場合にも、同様な急激な変化が185K付近で認められ、この温度で電気伝導性と磁性が同時に切り替わることが分かった。

 放射光を用いて各種の温度における結晶構造を調べたところ、熱による重水素移動を引き金とした電子移動がこのスイッチング現象の起源となっていることが明らかになったという。

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