(独)農業生物資源研究所は8月25日、遺伝子組み換えカイコを作る際、目的の遺伝子と一緒に導入する「マーカー遺伝子」を強力に働かせることができるプロモーターを発見したと発表した。このプロモーターを利用すると、導入した遺伝子がうまく働いているカイコを卵の段階で選り分けられるため、組み換えカイコによる有用物質生産の生産性向上が期待できるという。
■様々な成長段階で全身に働く
遺伝子組み換えの成否を判別するのに用いるマーカー遺伝子としては、蛍光タンパク質を作る遺伝子を用いることが多い。カイコの卵や幼虫などで蛍光が観察されれば、その個体の組み換えは成功と判定できる。
プロモーターはこのマーカー遺伝子の働きを制御している部位で、これまで使われていたプロモーターは、卵のごく一部領域でしか蛍光タンパク質を働かせることができなかったり、組み換えの判別可能期間がごく短かったりし、判別作業は極めて厳しかった。
研究チームは今回、卵、幼虫、蛹、成虫といった様々な成長段階で、またカイコの全身で強く働く「hsp90」と名付けられた遺伝子を発見し、そのプロモーターを特定することに成功した。
このプロモーターを利用して緑色蛍光タンパク質遺伝子を発現させたところ、カイコの様々な成長時期に全身で強く働くことが確認された。特に卵の時期に少なくとも5日間強力に働くため、卵の段階での組み換え成否判別が容易にできることが分かったという。
また、このプロモーターは、カイコのどの組織でも同様に強く働くため、いろいろな遺伝子の機能をこれまでよりも容易に調べることが可能になり、有用物質生産の効率化や害虫制御剤の開発などにつながるとしている。

カイコの卵、幼虫、蛹(さなぎ)、成虫での「hsp90」プロモーターの活性。それぞれ左の写真が白色光下、右の写真が蛍光下で撮影。右側の写真で緑色に光っているのが活性がある部分で、hsp90プロモーターは各段階の全身で活性をもつことが分かる。スケールバーは卵が0.3mm、幼虫が1mm、蛹と成虫が3mmを示す(提供:農業生物資源研究所)