
上は、クモ糸シルクで作ったベストとスカーフ(ブルーの染料で染色)。下は、切れにくさ(タフネス)を比較したグラフ(提供:農業生物資源研究所)
(独)農業生物資源研究所は8月27日、遺伝子組み換えでシルクの1.5倍も強くて切れにくいクモ糸を作るカイコを開発したと発表した。実用品種のカイコにクモ糸を作らせたのは初めて。糸はシルク本来の光沢や軟らかさを併せ持ち、通常のシルクと同様に織物にできる。ファッション分野だけでなく、手術用の糸や防災ロープ、防護服などにも使える付加価値の高い繊維素材になると期待される。
■手術用の糸や防災ロープ、防護服など応用も
クモの糸は、鋼鉄の繊維と呼ばれるほどの強度と伸びる性質を併せ持つ。今回は、特にオニグモが巣の縦糸として作るタンパク質に注目。通常のシルク生産に用いる実用品種のカイコの卵にオニグモの遺伝子を注入、カイコの遺伝子との融合を試みた。
カイコの卵に遺伝子を注入するには休眠状態の卵を目覚めさせる必要があるが、同研究所は塩酸の水溶液に卵を浸すなどしてこれを実現。オニグモの縦糸タンパク質遺伝子の一部とカイコのシルクタンパク質「フィブロイン」の遺伝子が融合した遺伝子を持つカイコを生みだすことに成功した。
このカイコが作ったマユの生糸を分析したところ、オニグモのタンパク質を重量比で1%含んでおり、切れにくさを示す数値は通常の生糸の1.5倍以上だった。クモの中でも特に強く、鋼鉄の約20倍の切れにくさを持つといわれるアメリカジョロウグモの縦糸に匹敵する強度だった。
この生糸を弱アルカリ性の溶液などで煮て付着する不純物などを取り除いたところ、光沢や柔らかい風合いはシルクと同様になった。通常の紡績機を使って織物にすることもできた。
遺伝子組み換えで大腸菌や酵母、タバコなどにクモ糸を作らせる試みはこれまでもあったが、得られる液状タンパク質から長くて強い繊維に加工するのは難しく、特殊な技術開発が必要だった。また、実験用のカイコ品種に作らせる試みもあったが、糸が少量しか得られないうえ、通常のシルク生産工程で織物にするのも困難だった。
同研究所は今後、極細シルクや蛍光シルクを生産する実用カイコ品種などを利用すれば、より細いシルクや光るシルクなど高付加価値の繊維素材の開発につながると期待している。