筑波大学は5月23日、ホヤの卵を用いてその中で働く多くの遺伝子のうち、狙った遺伝子の機能だけを抑制する新手法を開発したと発表した。受精後にたった1つの細胞が分裂を繰り返して成体になる卵内で、個々の遺伝子がどのような役割を果たしているかを解明する有力な手法になると期待している。
■「マスク法」―ホヤを使って研究
筑波大・生命環境系の笹倉靖徳教授らの研究グループがホヤの一種「カタユウレイボヤ」の卵を用いて開発、新手法を「マスク法」と名付けた。
実験では、まず卵の遺伝子の一部に緑色蛍光たんぱく質遺伝子(GFP)を組み込んで、ホタルのように緑色に光る卵を産むホヤの系統の作製を試みた。しかし、作製した系統の多くで卵が光ることはなかった。得られた卵から発生した個体も正常なオタマジャクシの形をした幼生にならず、異常な形となった。
そこで、その原因がGFPを組み込んだ遺伝子「Ci-pem」に問題があるためではないかと考えて詳しく調べたところ、通常なら卵内で働いているはずのCi-pem遺伝子が正常に機能していなかった。GFPを他の遺伝子に組み込んでも同様の現象が起きた。その一方で、他の遺伝子の働きには何の影響もないことが分かった。
遺伝子の中には、卵内で働くだけでなく、細胞分裂を繰り返して成体になる発生過程で別の機能を発揮する遺伝子も数多く存在することが知られている。このため研究グループは、GFPによる卵内での遺伝子機能の抑制が発生過程での遺伝子機能にも影響を与えるかを調べたところ、発生過程では正常に機能していることが判明した。
卵は成熟した成体になった後に初めて生み出される細胞のため、卵の段階で個々の遺伝子の機能を調べることは、これまで極めて困難とされていた。
今回の成果について、笹倉教授は「卵内で遺伝子がどのように機能することで多細胞生物の体が構築されていくのか、という発生現象の基本メカニズム解明の進展が期待される」と話している。