光の照射で原子間や分子間の凝集力を増強
―ミュレーションで理論的に可能性を予測
:産業技術総合研究所/中国・四川大学ほか(2014年5月19日発表)

 (独)産業技術総合研究所は5月19日、原子や分子の間に働く弱い凝集力を光の照射で強められることがわかったと発表した。コンピューターを用いた計算で理論的に明らかにしたもので、原子や分子の結合を制御できる可能性がある。半導体に比べて低コスト化が期待される有機材料を用いた電子素子用の高品質分子性結晶の作成などへの応用が期待される。

 

■化学結合の1,000分の1程度の大きさ

 

 産総研のナノ炭素材料シミュレーショングループの宮本良之・研究グループ長と非平衡材料シミュレーショングループの宮崎剛英・研究グループ長が、中国の四川大学、スペインのバスク大学の協力を得て突き止めた。

 今回研究の対象にしたのは、化学反応性を持たない希ガスのヘリウム。この原子の内部にある電子は、特定波長の光を吸収して原子内のより高いエネルギー状態の軌道に跳び上がり興奮(励起)状態になることが知られている。

 研究グループは、ヘリウム原子内部の電子の状態が、この特定波長に近い波長の光を照射したときにどのように変化していくかを、コンピューターで理論的に計算した。その結果、原子内の電子は軌道を変えようと振動を始め、光を照射し続けるとその振幅は少しずつ大きくなった。

 2つのヘリウム原子が隣り合うと、原子内の電子は電気的に互いに反発する。このため、ヘリウム原子は電子の分布が一方に片寄り、正の電荷を持つ原子核と負の電子が鉄アレイ状になった双極子となる。この結果、2つのヘリウム原子間には互いに引き合う力が生まれることが分かった。

 シミュレーションでは、この力の影響で2個のヘリウム原子の間の距離は光照射がない場合に比べてより近づいた。力の大きさは通常の化学結合の1,000分の1程度と小さいが、分子性結晶などを作るのに必要な原子や分子の操作には十分な大きさだという。

 今後は、ヘリウム原子よりも複雑な原子や分子でも同様の効果が期待できることを確かめ、分子性結晶の作成と新電子素子への応用を目指す研究に取り組みたいとしている。

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