(独)産業技術総合研究所と(公財)高輝度光科学研究センターは5月22日、電子情報機器の放熱材料として有望な高品質カーボンナノチューブ(CNT)が高密度に成長できる仕組みを解明したと発表した。ナノ(10億分の1)メートル単位の細いチューブを、“森”の木のように鉄の基板上に密生させるための条件を突き止めた。高密度するほど放熱効果を高まるので、携帯端末やスーパーコンピューターなどの情報機器の効率的な冷却、大幅な省電力化に役立つと期待している。
■大型放射光施設「SPring-8」で解析
情報機器の消費電力は2025年には国内総電力の20%を占めると予想されており、その低消費電力化が急務となっている。特に機器の温度が上がるほど消費電力が増大するため、効率的な冷却技術が求められている。
熱伝導率が高いカーボンナノチューブをブラシ状の束にして高密度の“森”を作ってやれば優れた放熱材料になるため、産総研は最近、従来の20倍に高密度化する新技術を開発した。そこで研究グループは、高輝度光科学研究センターの大型放射光施設「SPring-8」を使い、新技術でなぜ高密度化できたのかを詳しく解析した。
新技術は、厚さ1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)のチタンの層の上に厚さ2nmの鉄の層を重ねた薄膜にカーボンナノチューブの森を成長させるのが特徴。この薄膜を真空容器に入れて450℃に加熱した後、原料となるアセチレンガスを入れると、高密度のカーボンナノチューブの森ができる。
解析によると、初めに酸化していた鉄の層が450℃に熱せられることで下層のチタンが鉄の酸素を吸収して鉄を還元、鉄が微粒子化するのに都合のよい条件が生まれる。この後にアセチレンを導入すると、微粒子化した鉄の上にカーボンナノチューブが成長、“森”が高密度化することがわかった。
従来技術ではアルミナなどの層に鉄の薄膜を重ねた基板を用いて800℃という高温環境下でアセチレンガスを入れていたが、今回の研究で“森”の高密度化には450度という低温での成長が有利であること、鉄を還元させるチタンの初期の酸化状態の制御が重要であることなどがわかった。
今回の成果について、研究グループは「カーボンナノチューブの成長条件の改善に取り組めるようになった意義は大きい」としている。