1分子で3つの機能、光スイッチング分子を開発
―分子エレクトロニクスの実現に向け前進
:筑波大学(2014年5月15日発表)

 筑波大学は5月15日、緑と赤の光を使い分けることで、3つの異なる電子状態を生成できる光スイッチング分子を開発したと発表した。オン・オフだけではなく、オン1、オン2、オフの3通りに切り替えられる機能を1つの分子に持たせた例は、世界的にもほとんど知られていないという。電子素子機能を持つ分子を集積して電子回路を構成する分子エレクトロニクスの実現に一歩近づく成果という。

 

■赤色光と緑色光との使い分けで切り替え

 

 開発したのは、3つの状態を選択的にスイッチできる新分子。このような分子を得るには、1つの分子に異なる光学応答部位を共存させなければならず、緻密な分子設計と高度な合成技術が必要なことから、2種類の光応答部位の組み込みはこれまで極めて困難とされていた。

 研究チームはまず、熱と光に応答して磁性が変化する4つの「鉄(Ⅱ)イオン」(2価の鉄イオン)からなる金属錯体分子を合成し、これを酸化して、+2の電荷を持つ鉄(Ⅱ)イオンと+3の電荷を持つ「鉄(Ⅲ)イオン」(3価の鉄イオン)が1分子内に共存する錯体を合成した。

 この錯体に波長532nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の緑色レーザー光を照射したところ、明らかな磁性の変化を観測、波長808nmの赤色レーザー光の照射では大きな磁性変化が観測されたという。

 これらのスイッチング現象を詳細に調べた結果、緑色光では鉄(Ⅱ)イオンのみが選択的に応答し、赤色光では鉄(Ⅱ)イオンと鉄(Ⅲ)イオンが同時に応答することが明らかになり、緑色光と赤色光を使い分けることによりオン1、オン2、オフの3状態を切り替えることができる多重スイッチング分子であることが分かったという。今後は素子への応用研究を進めたいとしている。

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