(独)産業技術総合研究所は5月15日、エレクトロニクス分野などへの応用が期待される新材料「単層カーボンナノチューブ(CNT)」を独自開発の光応答性分散剤を利用して精製する技術の有効性を実証したと発表した。液体中で単層CNTを均一化する分散剤によって実験室規模の高度精製も容易になり、単層CNTを用いた電子回路の作製技術への応用を期待している。
■光照射工程は5分の1に短縮
単層CNTは、炭素原子でできた直径0.7~4nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度の極微のチューブ状物質。炭素原子が六角形の網の目状につながった構造をしている。六角形の並び方で半導体的性質や金属的性質を示すため、新しい電子材料として注目されている。ただ、液体に混ぜにくく、半導体型と金属型の分離などの高度精製が難しかった。
産総研は、これまでに単層CNTを均一に分散、その状態制御も可能な光応答性分散剤を開発してきた。これは光を照射することで分散剤表面の化学構造が変化、単層CNTが分散剤に吸着したり外れたりする現象を利用して分散状態の制御ができる。今回はこの分散制御に遠心分離技術を組み合わせることで、不純物を含む試料から単層CNTにダメージを与えることなく高純度で取り出せることを確認した。
実験では、光応答性分散剤と遠心分離技術によって炭素粒子や金属微粒子などの不純物を含む試料から単層CNTを精製、従来、最も優れた分散剤とされるデオキシコール酸ナトリウムに匹敵する分散能を持つことを確認した。
また、光応答性分散剤は、少量で効果を発揮するため、分散剤に吸着した単層CNTを光照射で外す工程でも、余分な分散剤に光をさえぎられにくく、光照射工程を従来の10時間から2時間程度に短縮できた。さらに、温度などの作業環境にあまり影響されないこともわかった。従来の分散剤は一定以上の濃度が必要なうえ、作業環境の影響を受けやすいという難点があった。
産総研は今後、精製プロセスの最適化を進め、得られる単層CNTで固体膜を作成して電子回路の微細加工技術の開発へとつなげたいとしている。