宇宙で結晶化、ペプチド分解酵素の立体構造解明
―多剤耐性菌に対する新たな抗菌薬の開発に期待
:宇宙航空研究開発機構/岩手医科大学ほか(2014年5月16日発表)

 (独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月16日、岩手医科大学、昭和大学、長岡技術科学大学と共同で、地球を周回している国際宇宙ステーション(ISS)の日本の実験棟「きぼう」を使いペプチド分解酵素の一種「DAP BⅡ」を結晶化させ、X線結晶構造解析によって結晶の立体構造とぺプチド分解機構を解明したと発表した。「DAP BⅡ」の立体構造を解明したのは、世界でも初めて。

 

■全く新規の立体構造持つ

 

 「きぼう」は、高度約400kmを保って地球を90分余りで周回しているISSに接続する日本初の有人実験施設。今回の結晶化実験は、高品質のタンパク質結晶生成宇宙実験の一環として行われた。

 「DAP BⅡ」は、多剤耐性菌や歯周病菌のペプチドが分解される際に重要な役割を果たす酵素とよく似た構造と機能を持つペプチド分解酵素として知られる。複数の抗生物質に対して抵抗性を持ち、様々な抗菌薬に耐える多剤耐性菌は、院内感染の原因の一つになっているが、今回の研究成果は、多剤耐性菌に対する新たな抗菌薬の開発に役立つことが期待されるという。

 「DAP BⅡ」の立体構造解析は、高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設「フォトンファクトリー」(茨城・つくば市)と理化学研究所の大型放射光施設「SPrjng‐8」(兵庫・佐用町)を利用して行ったが、これまでに知られていない全く新規の立体構造を持っていることが分かったという。

 新薬の開発で最も重視されるのは、副作用。人間が似たような酵素を持っているとその機能まで阻害され、副作用が現れる可能性がある。「DAP BⅡ」は、それと似た酵素が人間の体内にはなく、また、タンパク質やペプチドを分解してエネルギーを得る「糖非発酵性細菌」と呼ばれる細菌にとって重要な酵素であることが知られている。

 こうしたことからJAXAは、今回の成果をもとに、多剤耐性菌などの病原性細菌に効果のある阻害剤の設計とスクリーニングに取り組み、新規抗菌薬の開発を目指すとしている。

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