昆虫の神経回路、光と熱の刺激で記憶形成に成功
―ショウジョウバエを使い遺伝子組み換え技術で
:筑波大学

 筑波大学は4月25日、光と熱で神経回路の活性を操作できるようにしたショウジョウバエの幼虫を作り、人工的に脳内で「連合記憶」を形成させることに成功したと発表した。同大学生命環境系の古久保‐徳永克男(ふるくぼ‐とくなが・かつお)教授の研究グループの成果。遺伝子組み換え技術を使って、ショウジョウバエの幼虫が持っている、匂いを伝える神経回路を光で、報酬(食物など)を伝える神経回路を熱でそれぞれ操作できるようにした。それまで理論的に提唱されてきた連合記憶の神経回路が、生きた個体の脳内で機能していることを実験的に示すことができた。

 

■光遺伝学・熱遺伝学の手法で

 

 ショウジョウバエの幼虫は、成虫に比べて単純な脳しか持たないが、匂いと食物という異なる刺激を関連付けて覚える「嗅覚連合学習」能力を持っている。しかし、どのような神経回路に基づいてそうした学習行動が構築されているのかは分かっていなかった。
 研究グループは、特定の神経細胞の神経回路機能を光によって調べる光遺伝学と、熱によって調べる熱遺伝学という最先端の両手法を組み合わせた新たな実験系を開発することで二つの異なる回路、匂いを伝える神経回路と報酬を伝える神経回路の両方を活性化させることに成功した。
 青い光を受けて細胞を活性化させる機能を持つタンパク質を、遺伝子組み換えによって特定の収穫受容体素因系細胞に発現させた幼虫は、青い光を受けると特定の匂いを感じる状態になる。
 また、高温になると細胞を活性化させる機能を持つタンパク質を遺伝子組み換えで発現させた幼虫は、熱刺激で報酬を受けている状態になる。作製したショウジョウバエは、光と熱の両方の刺激を同時に経験させると、本来は青い光を避ける習性だが、逆に青色光に寄る行動を示し、光と熱のどちらか一方の刺激だけを与えた場合は青色光に対する行動の変化が見られなくなる。
 こうしたことから、研究グループは、光と熱の同時刺激により神経回路が活性化され、条件づけに伴う嗅覚連合記憶が形成されたと考えることができるとしている。
 同大学では、「神経系のみを単離・培養し、最新のイメージング技術と組み合わせて顕微鏡下で光と熱によって神経回路を活性化することで、神経細胞が活性化する過程や情報の流れを可視化できることが期待される」といっている。

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青色光と赤色光を照射して区分けした寒天培地上でのテストでは、有意に青側による行動を示した。この行動変化が連合学習の成立を意味する(提供:筑波大学)