(独)理化学研究所と(独)科学技術振興機構は2月7日、卵子内に多量に存在する「異形ヒストン」というタンパク質をiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に用いると、iPS細胞の作製効率が約20倍上昇することを見出したと発表した。これまでのiPS細胞には無かった完全な多分化能を持つiPS細胞を作れる可能性があるという。
■核移植に似たメカニズム働く
京都大学の山中伸弥教授らは、転写因子と呼ばれる因子4種の遺伝子を細胞分化し終った体細胞の核(DNA)に入れ、体細胞を未分化段階の細胞に初期化(リプログラミング)し、様々な細胞に分化する多能性のあるiPS細胞を得た。
ただ、このiPS細胞は、胎盤以外のあらゆるタイプの細胞に分化する能力を持つ受精卵分裂初期段階のES細胞(胚性幹細胞)に比べると、多分化能に劣っているという課題を抱えている。
この問題に取り組む理研と東京大学、九州大学、筑波大学の共同研究グループは、DNAを巻き付けてDNAをコンパクトに細胞内におさめる役割をしているヒストンというタンパク質の仲間と、核移植によるクローン生物誕生との関連性に着目した。
体細胞の核を未受精卵に移植する、いわゆる核移植によるクローンの作製では、山中教授らが用いた転写因子とは異なるリプログラミング因子が卵子に存在し作用しているとみられている。
研究グループは卵子内に多量に存在する「TH2A」と「TH2B」という2つの「異形ヒストン(アミノ酸配列が通常と少し異なるヒストン)」が卵子のリプログラミング因子の候補とみて、これらの因子と中山因子とを用いてiPS細胞を作製した。
その結果、中山因子だけでiPS細胞を作った場合に比べ、iPS細胞の作製が早く進むとともに、作製効率が約20倍アップした。また、TH2AとTH2Bを用いると、4つの山中因子のうち2つだけでiPS細胞が作れることを見出した。
TH2AとTH2Bを用いた場合の特徴を解析したところ、核移植によるクローン作製に似たメカニズムが働いていることが認められたという。
核移植では全能性細胞(胎盤のような胚体外組織にも分化する能力を持つ、あらゆる細胞に分化できる細胞)が形成されることから、研究チームはTH2A,TH2Bを用いることにより、より完全な多分化能を持つiPS細胞を作り出せるのではないかとみている。

左は、異型ヒストンを用いて作製したiPS細胞。右は、このiPS細胞を用いて作製したキメラマウス。左下は、キメラマウスから生まれたマウス。このiPS 細胞が全ての組織に分化する能力を持つことを示している(提供:理化学研究所)