(独)物質・材料研究機構と(独)理化学研究所、東京大学は1月28日、次世代磁気メモリー素子の実現に道を開く技術を開発したと発表した。強磁性体の薄膜に「スキルミオン分子」と呼ぶ特殊な微細構造を初めて作り電気的に駆動することに成功、磁気記憶に利用できることを示した。次世代磁気メモリーとして最も注目されている「磁壁メモリー」に比べ駆動するための電流密度が1,000分の1で済み、高密度・低消費電力の磁気メモリーの開発につながる。
■駆動、従来の1,000分の1の低電流密度で
磁気記憶素子は、コマの回転にたとえられるスピンによって電子が小さな磁石として働く性質を利用、その向きで情報を記憶する。強磁性体の中で電子スピンの向きが逆転する境目の「磁壁」の移動を利用する磁壁メモリーが次世代技術として注目されているが、駆動に大きな電流密度を必要とし、消費電力が大きくなるのが難点だった。
研究グループは、強磁性体の薄膜中で電子スピンが渦巻き状に並んだ磁気構造体「スキルミオン」がより小さな電流密度で操作できることに注目。渦巻き方向が逆向きの2つのスキルミオンが互いに束縛し合うスキルミオン分子を層状マンガン酸化物薄膜の中に作ることに成功した。スキルミオン分子を電気的に駆動する実験では、駆動に必要な電流密度が強磁性体の磁壁を駆動する方式に比べ1,000分の1で済むことを確認した。
これまで1ビットの情報が記憶できる1個のスキルミオンを実現した例はあったが、スキルミオン分子ができたのは今回が初めて。スキルミオン分子では、スキルミオン単独の場合に比べてスキルミオン中を通過する電子に与える磁場が強まるが、これまで実測できた例はなかった。
研究グループは「スキルミオン分子がもたらす磁気輸送特性、高密度・低消費電力をいかした磁気メモリー素子の研究開発の推進につながる」と期待している。

aは、スキルミオン。短い矢印は電子スピンの向きを、長い矢印はスキルミオン中スピンの巻き方向を示す。スキルミオン中の電子スピンは渦巻き状に回りながら、中心に向かっていく。中心と最外周のスピンの向きは上下反対になる。Bは、スキルミオン分子の模式図。Cは、強磁性体薄膜中に実験で観察されたスキルミオン分子。“+”と“-”はスピンの回転方向で、時計回りと反時計回りを示す(提供:物質・材料研究機構)