筑波大学と(独)日本原子力研究開発機構、独シュツットガルト大学などの研究グループは1月30日、ダイヤモンド素子を使って量子コンピューターの誤動作の原因となる量子エラーを室温下で補正することに初めて成功したと発表した。極低温下での実験例はこれまでもあったが、実用化には室温下での補正が不可欠とされていた。スーパーコンピューターをしのぐ量子コンピューターの実現に道が開けると期待している。
■実用化へ大きな課題を克服
量子コンピューターは、光子や電子、原子核などミクロの世界を表す物理量である量子状態に情報を載せて計算する未来型コンピューター。量子力学によれば光子や電子は同時に複数の量子状態を取れるため、これを使えば同時並行に無数の演算をこなす超並列コンピューターが実現できる。
ただ、量子状態は熱や雑音など外部の影響を受けて演算に間違いが生じやすく、極低温に冷やした状態で補正するなどの実験例しかなかった。そのため、室温下でも量子エラーを補正できる技術の開発が実用化を進めるうえで大きな課題となっていた。
研究グループは、ダイヤモンド結晶に電子線を照射、熱を加えて結晶中の炭素の一部を窒素に置き換え、窒素と炭素の抜けた穴がペアになった「NVセンター」と呼ばれる結晶欠陥を作製。この欠陥によって生じる窒素の原子核3個と電子1個の量子状態の相互作用を利用して演算処理を実行する素子を作った。
原子核や電子の量子状態に情報を載せて演算処理する実験を試みたところ、原子核や電子の量子状態の相互作用によって室温下で量子エラーを補正できることがわかった。
研究グループは、今回の成果を「量子コンピューターに必須の量子エラー訂正における大きなブレークスルーだ。量子コンピューターの実現に向けて大きく前進した」といっている。