異種原子を内包したフラーレンの合成に初めて成功
―フラーレン応用の新デバイスや新材料の研究に弾み
:筑波大学/京都大学

 筑波大学と京都大学は3月6日、ナノ空間に閉じ込めたヘリウム原子の構造解析に成功するとともに、ヘリウム原子と窒素原子を同時に内包した球状分子「フラーレン」の合成に成功したと発表した。今回用いた手法を応用すると、異種原子を同時に内包したフラーレンをいろいろと創り出すことができ、新たな有機デバイスや機能材料の開発が期待できるという。
 ヘリウムは軽く小さなガス状の原子で、常圧下の絶対零度(マイナス273℃)付近でも固体にならず、また、ヘリウム原子だけを選択的に固体中に閉じ込めることができる物質が存在しなかったことから、単結晶X線解析によるヘリウム原子の観測例はこれまでなかった。
 研究チームは今回、「分子手術法」と名付けた手法を使ってヘリウム内包フラーレンを作製した。分子手術法は、炭素原子でできた球状の中空構造物であるフラーレンに有機化学反応で開口部を作り、そこから水素分子やヘリウム原子などを挿入して開口を閉じるという手法。
 従来のアーク放電、イオン注入、高温高圧処理法による挿入よりも効率よく金属イオン・原子を内包させられるが、今回はヘリウムの内包率をさらに95%まで高め、それを単結晶化した。この単結晶を大型放射光施設SPring-8の強力なX線を用いて構造解析し、フラーレン内部に捕獲されているヘリウム原子の観測に世界で初めて成功した。マイナス100℃下でヘリウム原子が動いている様子がとらえられ、フラーレン内部には他の原子が入る余地のあることが認められた。
 そこで研究チームは、イオン注入法の一種であるプラズマ放電法を用いて窒素原子の追加挿入を試み、ヘリウム原子と窒素原子の異種2原子を内包したフラーレンの合成に成功した。
 2種類の手法を段階的に適用することにより異種原子内包フラーレンを合成した初の例で、多様な内包フラーレンの合成に道を開く成果としている。フラーレンを用いた有機薄膜太陽電池や有機トランジスタなどの研究の加速が期待できるという。

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ヘリウム原子(赤い球)を内包したフラーレンと、ヘリウム原子・窒素原子(青い球)の2つを内包したフラーレンのイメージ図(提供:筑波大学)