(独)物質・材料研究機構は3月1日、皮膚の下に埋め込んで患者が指で押すだけで必要な薬を放出できる新しい投薬法の開発に道を開いたと発表した。分子構造の中に薬剤を保持するゼリー状の新材料を開発したもので、外部からの圧力に応じて保持力を微妙に変化させ、薬剤を自由に放出できる。吐き気を催して薬を飲めない抗がん剤治療の患者の苦痛を和らげたり、喘息や花粉症の患者がいつでも自分の意志で投薬したりする投薬法の実現につながると期待している。
新材料はコンブやワカメなどの藻類に含まれる高分子のアルギン酸と糖の一種であるシクロデキストリンを結合させて作ったゼリー状物質。シクロデキストリン分子はお椀のような環状の分子構造を持っており、中にさまざまな化学物質を取り込むが、その保持力はお椀の大きさによって大きく変化する。
同機構は、シクロデキストリンをアルギン酸と組み合わせることでゼリー状にすると、外部から力を加えることでお椀の形を分子レベルで一時的に変化させ、化学物質を保持する力も変えられることを突き止めた。
実験では、吐き気を抑える制吐剤「オンダンセトロン」を新材料に保持させ、全体の厚みが半分になるように圧力を加えたところ、保持力の指標である結合定数は半分になった。さらに、厚さが40%になるまで圧力を加えたら3分の1にまで下がり、加圧に応じて制吐剤が放出されることが分かった。
この性質は3日間にわたって持続することも確認しており、化学物質として適当な薬剤を用いれば新しい薬剤投与技術「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」として将来使える可能性があることが分かった。
今回の成果は、薬剤を保持する担体分子を適切に設計することで薬剤放出が人の手の力で制御できることを示したもので、同機構は「今後のDDS戦略の幅を大きく広げられる」と期待している。
No.2013-8
2013年2月25日~2013年3月3日