トンネル電界効果素子のシミュレーション技術を開発
―回路動作を予測、LSIの低消費電力化に威力
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は9月25日、大規模集積回路(LSI)の大幅な低消費電力化を可能にする新原理の素子「トンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)」の回路動作を予測するシミュレーション技術を開発したと発表した。新技術は、シミュレーションの基本となる素子動作モデルで、現在使われている回路シミュレーターにも組み込める。従来のLSIの消費電力を10~100分の1に低減することを目指して開発が進むトンネルFETの実用化に貢献すると期待している。
 開発したのは、産総研の福田浩一研究員らと日立製作所、東芝など企業5社からの出向研究者で構成する研究グループ。
 LSIはコンピューターや携帯電話など情報機器の心臓部だが、情報機器の高機能化に伴ってLSIの消費電力削減が大きな課題になっている。既存のLSIは、電界効果トランジスタ(MOSFET)を高密度に集積して作られているが、低消費電力化は限界に近づいているとされている。
 これに対しトンネルFETは、20世紀に確立した量子力学理論で明らかになったトンネル効果と呼ばれる現象を利用、大幅な低消費電力化が可能として注目されている。ただ、トンネルFETでLSIを作るには、回路設計の段階で回路が設計通りの性能を満たすかを予め検証するシミュレーションが欠かせない。
 今回開発した素子動作モデルは、このシミュレーションの基本要素となるもので、個々の素子がどのような電流電圧特性を持つかを予測する。これまでトンネル効果を取り入れた動作モデルはなかったが、新モデルではまずトンネル効果が起きる部分の電界分布を予測、それからトンネル電流の大きさを見積もって電流電圧特性を予測することを可能にした。実際にトンネルFETの電流電圧特性を実測、新モデルで予測しておいた数値と比較したところ、精度よくシミュレーションできていることが確認できた。
 研究グループは今後、新動作モデルをLSIの低消費電力化を進めている研究者に提供し、トンネルFETの実用化を加速したいとしている。

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トンネルFETの構造と動作原理。灰色はオフ状態を示す(提供:産業技術総合研究所)