グラフェンの新しい電気伝導制御でトランジスタ試作
―室温でオン・オフ、超低消費電力素子の実現に道
:産業技術総合研究所/物質・材料研究機構

 (独)産業技術総合研究所と(独)物質・材料研究機構は9月25日、炭素原子が平面上で蜂の巣状に並んだ単原子薄膜「グラフェン」の新しい電気伝導制御技術を開発、超低消費電力化が可能なトランジスタを試作したと発表した。これまで難しいとされていた電流の遮断など自由な電気伝導制御を実現、室温で電流のオン・オフを切り替えるスイッチング動作にも成功した。シリコン半導体に代わる次世代電子素子の実現に道が開けると期待している。
 シリコンを用いた現在の集積回路は、トランジスタ回路をより微細化することで集積度を高め、高速・高性能化を進めてきた。しかし、電気的特性の劣化や発熱が大きな問題となり、微細化・高集積化は、限界に近づいているとされている。
 これに対しグラフェンは、電子がシリコンの100倍以上動きやすく超低消費電力化が可能で、これらの問題を解決できる新材料として注目されていた。ただ、これまでは電流制御が困難で、スイッチング動作が難しいと考えられていた。
 研究グループは、グラフェンにヘリウムイオンのビームを照射、人為的に結晶欠陥を作ることでグラフェン中の電子や正孔の動きやすさを変えられることを見出した。照射量を変えることで結晶欠陥の量を調整、グラフェンに絶縁領域や導電領域を作れる。さらに電圧を加えることで、導電領域を流れる電流をオン・オフできることがわかった。
 そこで、この技術でグラフェン上に設けた電極間にかける電圧で導電領域の電流をオン・オフするスイッチングトランジスタを試作、実験したところ、室温でオンの時に流れる電流がオフの時より二桁も大きいことがわかった。グラフェンではこれまで、室温でこの数値が1桁を超えたことはなかった。
 今回の技術は、回路の微細加工に既存のリソグラフィー技術が応用できるため、従来の製造技術の枠内で量産化対応も可能。研究グループは今後、電流のオン・オフ比や電気の通りやすさの向上など高品質化を進め、大面積ウエハーによる素子の試作を目指す。

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試作したグラフェン素子におけるヘリウムイオン照射領域の概念図(提供:産業技術総合研究所)