放射線被ばくの障害予防・治療に効果あるタンパク質を作る
―マウスによる高線量被ばく実験で効果確認
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は9月3日、高い線量の放射線を被ばくした際の障害の予防・治療に効果があるとみられる新たなタンパク質を、(独)放射線医学総合研究所の協力を得て開発したと発表した。開発したのは細胞の増殖を促す働きをする細胞増殖因子の一種。マウス実験で効果を確認した。今後、有効性をさらに追求し、安全性なども評価したいとしている。
 放射線障害を予防あるいは治療する薬は、甲状腺への放射性ヨウ素の蓄積を防ぐヨウ化カリウムや、白血球数の低下と合併症を防ぐ「G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)」程度しか知られていないが、米国では、放射線照射治療に伴う口腔粘膜炎の治療薬としてパリフェルミンというヒト角化細胞増殖因子「FGF7」が用いられている(日本では未承認)。
 このFGF7は、繊維芽細胞増殖因子「FGF」の仲間で、上皮細胞にだけ特異的に作用する。FGFの仲間には他に、真皮細胞に特異的に作用する褥瘡(じょくそう)治療薬のトラフェルミン(塩基性繊維芽細胞増殖因子「FGF2」)や、ヘパリンなどの糖鎖の存在下で広範な細胞に作用する酸性繊維芽細胞増殖因子「FGF1」などがある。
 研究チームは、このFGF1とFGF2の分子の一部を入れ替えたキメラ分子を数種類作り、このうちの「FGFC」という因子が、増殖にヘパリンを必要とせずに広範な細胞に作用し、耐酸性やタンパク質分解酵素に対する抵抗性などでこれまでのFGFには無い特性を持っていることを見出した。
 そこで放射線障害の防護剤としてのFGFCの効果検証を目指し、今回、高線量の被ばくによる個体の生存率の変化をマウスを使って調べた。実験は、被ばく前投与による予防効果と、被ばく後投与の治療効果についてそれぞれデータを取得した。
 まず、被ばく24時間前にFGFCを3μg(マイクログラム、1μは100万分の1)~30μg投与し、8グレイ(Gy)という高い線量のX線を照射した場合、投与したFGFCの量が多いほど照射後の生存日数が延びた。6GyのX線照射の場合には、生理食塩水を与えたマウス群は、照射後30日までに38%が死んだが、FGFCを30μg投与したマウス群は、すべて生存した。10Gyの照射では有意な差は認められなかった。
 被ばく後の効果の検証では、2時間後、24時間後にFGFCを投与し、生存率への影響を調べた。6Gy照射したマウス群ではいずれの投与によっても生存率の向上が認められた。しかし、8Gy、10Gy照射群では有意な効果は認められなかった。
 研究チームは今後FGFCの作用メカニズムを詳細に解析し、効果を最大限活用できる方法を確立したいとしている。

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