高い電子移動能を持つ超薄膜を開発
―新メモリー実現に向け一歩
:産業技術総合研究所/中央大学

 (独)産業技術総合研究所は7月18日、中央大学理工学部の芳賀正明教授らと共同で、高い電子移動能(電子が物質内を移動する能力)を持つ「ルテニウム錯体多層膜」と呼ばれる超薄膜を開発したと発表した。
 エレクトロニクスの世界では、シリコンを使わない有機分子1個からなる新たな電子素子「分子エレクトロニクス」を目指す研究が進んでいる。分子1個を孤立したメモリーセルとして利用し、集積化するというもので、極めて高密度な大容量の「分子メモリー」と呼ばれる新メモリー素子が実現すると期待されている。
 しかし、有機分子は、電子移動能が低く、膜厚が厚くなると膜内を流れる電流量が激減し、わずか1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)厚くなるだけで流れる電流が500分の1~1,000分の1程度にまでダウンするものもある。
 産総研と中大が開発したルテニウム錯体多層膜は、有機分子中に金属元素のルテニウムが取り込まれた化学構造の化合物でできた超薄膜。
 実験では、開発したルテニウム錯体多層膜を10nmを超える膜厚の5層膜にしても膜厚約2nmの単層膜の3分の1程度の電流が流れることを確認しており、「従来の共役分子膜よりもはるかに長距離の電子移動が実現していることが分かった」と産総研はいっている。
 産総研は、今回開発したルテニウム錯体多層膜を有機太陽電池や電子デバイスに応用する研究開発を今後幅広く展開していく予定という。

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